VOL.19 「後肢の踏み込み」 |
2011年11月号 本来乗馬において、最も重要視されるのが後肢の踏み込みです。 何故、後肢の踏み込みが重要視されるのか。 それは乗馬においては、競馬と違って方向の変換が絶えず求められるからです。 競馬においても後肢の踏み込みが重要視されるわけですが、馬が速く走るためには2つの方法を駆使していて、一つはできるだけ速く脚を動かす、つまりステップを速くするということで、もう一つはストライド(歩幅)を大きくするということです。そして後肢の踏み込みは、ストライドを大きくするために必要なことなので、競馬においても重要視されるわけです。 一方乗馬において求める後肢の踏み込みは、競馬ほど速いスピードを求められるわけではないのに、どうして後肢の踏み込みは重要視されるのでしょう。 乗馬において求められる後肢の踏み込みは、ストライドのエクステンド(伸長)よりも馬の重心を、後肢へ負重する割合を多くして、前肢の負荷を軽減して方向の転換を容易にすることと、支点を重心の真下にすることで運動効率を高めるということが主な目的なのです。 これを、バランスバックといいます。 後肢の踏み込みは、競馬においては主にストライドのエクステンド、乗馬においては主に運動の効率化と方向変換の容易性が目的なのです。 そもそも何故バランスバックが必要なのか。 それは、馬の重心が第12肋骨付近にあるということが分かっていますが、このことによって前肢へ60%前後、後肢へ40%前後、体重を負重しているといわれています。 従って、馬は直進運動においては、主に前肢で体重を持ち上げて後肢で駆動するようなメカニズムを持っていて、直進運動には、大変合理的な構造を持っているということができるのです。 |
しかし、直進運動に合理的だということは、方向の転換(曲進)には不合理な構造を持っているともいえるのです。 そこで、後肢を重心の真下へ近づけるために踏み込ませて、バランスバックを行って後肢への体重の負重を大きくして、前肢への負重を軽減し前肢によるステアリング(方向の変換)を容易にしているのです。 前肢へ60%前後体重を負重していると、ステアリングが容易でないので、これを乗馬においては、競馬に比べるとステアリングを遙かに要求されるので、前肢の負担を軽減して軽快なステアリングを可能にするために、バランスバックが必要となるのです。 球体を重心の真下に支点が位置すれば、360度ほんの少しバランスを崩せば、崩した方向へと運動することができる。つまり重心の真下に後肢が踏み込んでいれば、最小限の駆動力によって運動することができるということで、このことが馬術における収縮(コレクションCollection)の根幹的な目的なのです。 前肢の負担軽減によって方向の転換を容易にすることが、後肢の踏み込みの乗馬における目的だといいましたが、単に前肢の負担軽減だけが目的ではなく前後肢共に負担を最小限にして、方向転換も駆動も容易にする役割を果たしているのです。 そして駆動が最小限のエナジーですむということは、停止もまた最小限の負担ですむということなのです。 如何に後肢の踏み込みが、競馬も含む馬術全般において最も重要なファクターであることが分かるのです。 そしてその目的は、重心の真下に後肢を位置させて収縮態勢を作ることにあり、最小限の負担で駆動や停止や方向転換をすることなのです。 最小限の負担で効率よく運動できるということは、最大限の力を発揮すれば、無駄なく最大限の出力もまたできるということなのです。 そしてまた、後肢の踏み込みは本来の目的ではなくて、重心をその真下で支えるような態勢を作ることにあるわけで、後肢の踏み込みによってその態勢ができればそれに越したことはないが、もし後肢の充分な踏み込みを作れないのであれば、重心を後肢へ負重するようにライダー自身の重心を後方へ、また馬の頭を高めに位置させることによって重心を後方へ、より負重するようにすることもその目的を成すことになるのです。 2011年10月24日 著者 土岐田 勘次郎 |
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