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    VOL.30 「馬のフラストレーション」



                                                 

 2012年10月号


 今月のテーマは、乗馬における馬のフラストレーションで、ライダーが馬をコントロールする上で、馬に指示として与えるプレッシャーが、従順性に繋がる場合とフラストレーションとなる場合のメカニズムについて解説したいと思う。

 多くのライダーを見るに付け、馬にフラストレーションを与えてしまう人は、その殆どの人がそのことに気付いていないことが特徴である。
 症状として馬が反抗したり抵抗したりしていることは気付いていても、自分が何をどのようにしているから、反抗や抵抗になっているのかについては全く気付いていないし多くの人は関心もない。

 本来ライダーが、馬のフラストレーションについて気付いていないことが、そもそも馬のフラストレーションになっている原因でもある。

 問題は、ライダーの行為が、馬術上正しいかどうかということではない。しかし、フラストレーションを作ってしまうライダーは、正しい行為をしているかどうかという視点でしか、馬との関係性を見ようとしないのである。

 人間同士でも同様で、礼儀正しさやマナーの良さに照らして、言動が正しいかどうかで、コミュニケーションが成立するのか、また摩擦が起きたり、双方か片方にフラストレーションが発生したりするのかが決まるわけではない。

 ライダーの行動の規範が、何処にあるのかによって、ライダーが馬の指示として与えるプレッシャーが、馬のフラストレーションに繋がるのか、従順性に繋がるのかが決定する。

 ライダーの行動の規範が、ライダーが馬に対して求める運動やその軌道が正しく行えているかどうかであれば、馬がライダーから受けるプレッシャーは、フラストレーションに繋がるのである。

 一方、ライダーが馬に対して求める運動やその軌道が、馬が従順に従った上で正しく行われているかどうかが、ライダーの行動の規範となっていれば、ライダーが馬に与えるプレッシャーは、馬の従順性を増幅させて、フラストレーションを作ることはないのである。

 ライダーは、馬に乗っていること自体や何らかの指示命令をする度に、馬に対してプレッシャーを与える。
 このプレッシャーは、必ず馬にとってストレスになる。このストレスが、フラストレーションに繋がってしまうのか、従順性や忠誠心に繋がるのかは、馬のパーソナリティとライダーの行動規範によって決定する。

 ここで問題なのは、ライダーの行動規範である。

 ライダーが当然指示命令に対して、馬が正しく反応することを求めるが、その時に接点であるレインハンドや脚を行使したときに感じる重量感が、次のライダーが馬に送るプレッシャーのオンオフや軽重を決定しているのであれば、馬にとって与えられたストレスがフラストレーションに繋がることはない。

 しかし、ライダーが正しい反応を、馬がしたかどうかだけで次のプレッシャーのオンオフや軽重を決定しているのであれば、馬は与えられたストレスが全てフラストレーションに繋がってしまうのである。

 人間同士のコミュニケーションでも、言葉が持つ意味でだけで話をしていれば、相手は必ず不快感を持ちフラストレーションを募ってしまうのである。しかし、表情や声のトーンや仕草によって相手の真意を読み取りながら会話をすれば、意見が異なったとしても相手がフラストレーションを募らせてしまうということはない。






 馬とライダーの関係においても同様で、正しいことを求めることは大前提だが、プレッシャーをもっと強めるのかリリースするのかをライダーが決めるのは、レインハンドや脚が馬に接触したときに感じるより重さが軽く変化したのか重たく変化したのかによってでなければ、与えるプレッシャーが大きいか小さいかではなくて、どんなに小さかったとしても全てのプレッシャーは、必ずフラストレーションに繋がって、馬の反抗や抵抗を作ってしまうのである。

 何も気付かずに馬のフラストレーションを作って、反抗や抵抗されてしまうライダーは、馬がどんなテンションでライダーの指示に従っているかを気にしていない人なのである。馬が嫌な顔をして「ハイ」といっているのか、微笑みながら「ハイ」といっているかを気にしていないのである。

 その嫌な顔をしているのかそうでないのかは、レインハンドや脚での接点において感じる重量感で判断しなければならないのである。つまり、手や脚で馬の指示命令を発したときに感じる接触感で分かることで、それが重く感じれば馬は嫌な顔をしているということで、軽く感じたり柔らかく感じたりすれば、馬は微笑んでライダーの指示に従っているということになるのである。

 そしてこのことは、以下の4つの組み合わせがあると考えることができる。

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 1.馬の正しい反応において、

 「(A)重たいテンション」 「(B)軽いテンション」
を見せる2つのケース。

 2.間違った反応において、

 「(C)重たいテンション」 「(D)軽いテンション」
を見せる2つのケースである。

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 さてこのときにライダーは、(A)の場合は、更にプレッシャーをその反応の重さの程度に合わせてより大きくして、テンションが軽くなるまで同じ反応を求めて繰り返す。

 (B)の場合は、掛けていたプレッシャーを解放するためにリリースをする。

 (C)の場合は、より大きなプレッシャーをかけて正しい反応を求める。このときに、小さなまたは軽微でも正しい反応と共に接触感が軽くなれば、プレッシャーを解放して、馬にどんな反応をすればプレッシャーから解放されるのかを学習させる。

 (D)の場合は、プレッシャーを強めずに同程度のプレッシャーを続けて、正しい反応をするまで繰り返し接触感が軽くなるように変化させて、軽くなったらリリースし、馬が自分の反応とプレッシャーの解放とが関連づけて学習できるように繰り返し、反応が間違っていたからといってプレッシャーを強めれば、馬は抵抗や犯行を意識的に固定化してしまうので、軽いプレッシャーのまま正しい反応を求め続ける。

 ライダーが馬の正しい反応を求めるのは、至極当然な話だが、手や脚での馬との接触点において感じるテンションによって、更なるプレッシャーかリリースかを瞬間的にジャッジメントして、次のライダーとしての行動が、絶えず一貫して決定付けられなければ、ライダーが馬に与えるプレッシャーは全てフラストレーションとして受け止められて、反抗や抵抗としての反応を形成するのである。

 



                 2012年9月11日

                 著者 土岐田 勘次郎


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