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    VOL.31 「合図(Cue)と扶助(Aid)」



                                                 

 2012年11月号


 今月号は、合図(Cue キュー)と扶助(Aid エイド)について、解説したいと思う。


 英和辞書では、Cue とAidの解釈について何ら区別のないものが多いが馬術上でははっきりと区別できるもので、多くのインストラクターや馬術関係者の中には、区別しないでこの言葉を使っている人がいるが、はっきりと区別して理解されたいと思う。


 乗馬における合図(Cue キュー)の定義は、ライダーが馬をコントロールするために、指示命令するプレッシャーが、馬の反応によってする運動に物理的力の働きがない場合をいう。
 例えば、ネックレインや脚による駈歩や速歩や常歩の発進や停止の時レインを引くなどということは、このキューの部類に入る。
 つまり、馬とライダーの間で、特に馬の学習作用によって作ったコンセンサスによって、成立するものといえる。

 一方乗馬における扶助(Aid エイド)の定義は、ライダーが馬をコントロールするために指示命令するプレッシャーが、馬の反応としてする運動に物理的力の働きが伴う場合をいう。
 例えば、ライダーの前傾や後傾などのポジショニングや、馬の頭の位置を下げたり左右に曲げたり、後肢を踏み込ませたり内方姿勢や外方姿勢などのフレームなどは、つまり収縮(Collection コレクション)や屈撓(Head Set ヘッドセット)は、このエイドの部類に入る。

キューとエイドを厳密に分けることはできない。つまり、馬の運動に物理的影響と全く与えないキューはあり得ないし、だからといって物理的力だけでは、エイドだけで馬をコントロールすることはできない。
 キューイングとは、馬をコントロールするために物理的力ではないわけだから、馬のメンタルや学習能力に支えられなければ、成り立たないものなのである。

 エイドとは、馬のムーブメントやモーメントに大きな影響力を持ち、つまりメカニカルやテクニカルムーブメントに大きな影響力を持ち、ムーブメントや左右の回転モーメントの切り替えなどは、このエイドを以てしなくてはできないのである。

 馬をトレーニングする目的の多くは、エイドとキューによって、ライダーの求める運動を馬にさせることができるように訓練することであるが、エイドを以て馬の運動を起こして、正しい反応にはリリ−ス与え、誤った反応には更なるプレッシャーを与えて、これを馬に学習させることによって、エイドの割合を減少させ、キューによる指示命令に領域を大きくすることにある。

 もしエイドの割合が大きく作用して馬をコントロールするとすれば、このことはライダーのバランスやフィールなどのスキルによるところが大きく作用して、どんなに馬のトレーニングが進んだところで、初心者にとっては馬をコントロールすることが困難な馬でしかない。
 しかし、トレーニングによってエイドで馬をコントロールしている割合を、馬の学習をより進めることによってキューへと移行するようにすれば、馬がライダーのレベルに作用される割合を小さくすることができ、より馬がライダーを選ぶ割合を少なくすることができるのである。






 トレーナーは、馬の運動をコントロールして、運動そのものを教えることと同時に、エイドからキューによって指示命令することができるようにという方向性を以て、馬を訓練する必要があって、それは取りも直さず、どんなレベルのライダーにとっても安全に乗ることができる馬を作るということなのである。

 日本の乗馬の世界で間違った考えを持っている指導者が多いのは、このことが大きく作用しているのであり、エイドをキューへと移行することを以て良しとする思想が欠如していることにある。

 この馬は初心者には乗れないとか、この馬はこんな技術をもったライダーでなければならないということを、恥だと思っていない。

 自分がトレーニングした馬は、ライダーのレベルを問わず「エニバディキャンライド」「Anybody Can Ride」とは、如何に優れた馬であるかという証しであるということが、日本の乗馬界に浸透することが、日本の乗馬のレベルアップに繋がることなのである。

 馬をパフォーマンスさせるのにエイドは、とても重要なファクターであるが、ライダーは何時でもこれをキューへと移行することを、念頭に置いて騎乗することもまた重要なのである。

 エイドとキューの定義を知ることは重要であり、馬とのコミュニケーションによって、エイドをキューへと移行するためにもまた、そのメカニズムを理解することは、とても重要なことなのである。

 馬のパフォーマンスは、その運動に適合したムーブメントやモーメントが無くてはならない要素だが、これに直接的な影響を与えることができるのが、エイドであり、これを徐々にコミュニケーションによって馬に学習せしめ、キューイングによって、これを馬が理解して、理に叶ったムーブメントやモーメントを反応として興して、パフォーマンスできるようにするようにすることが必要なのである。



 しかしながら、エイドの全てをキューへと移行できるものではないことも事実なので、ライダーは、エイドができるように訓練する必要があり、馬はエイドからキューへと移行するように、トレーニングする必要があるのである。

 



                 2012年10月25日

                 著者 土岐田 勘次郎


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