Horseman's Column title

    VOL.35「馬の姿勢(Posture)」



                                                 

 2013年3月号



 今月のテーマは、先月からの続きで
   馬の姿勢(Posture)の作り方である。


 馬術における馬の姿勢というと、収縮(Collection)・屈撓(Flexion)・内方姿勢に3つである。

 ライダーが馬をコントロールする上で、最も重要なファクターといえるのが馬の姿勢である。

 何故なら、ライダーが馬の運動に関して何ら強制力を持たないからで、脚やレイン操作で馬を運動させているように思っているが、実際上は、馬自身の意志やバランスなどによって動いているのであって、ライダーの指示がダイレクトに動いているわけではないからである。
 飽くまでも馬の運動は、ライダーとのコミュニケーションにおけるコンセンサスが成立したときにのみ、ライダーが馬の運動をコントロールできるのであって、馬の意思がライダーの意志に背くのであれば、ライダーは力尽くでも馬の運動を、コントロールすることはできないのである。

 かしながら、馬の取る姿勢は、馬の意思に関わらずライダーの力を以て作ることができるのである。
 馬の意思に関わらずとは、全く関係しないという意味ではなく、馬が抵抗することはできるが、その抵抗力よりもっと強いパワーをライダーが駆使できれば、意思に反して馬はライダーの望む姿勢を取らざるをえなくなるという意味である。

 繰り返していうが、馬の運動は、どんなにライダーが大きなパワーを以て指示したとしても、馬自身の意思の前では何ら強制力を持たないし、無理矢理馬に運動をさせることは、ライダーが馬の背中に乗っている限りできることではないのである。

 さて、ライダーは馬の姿勢を、強制力を以て作ることができるのであるから、その作り方は、作用と反作用や支点と力点との関係性において、馬体を屈曲させてその姿勢を作ることができるということなのである。
 内方姿勢は平面的(横方向)に、収縮や屈撓は立体的(縦方向)に屈曲させることなのである。




 まり、ライダーは、馬の運動の前や途中においてその姿勢を、強制力を以て作り、その姿勢から繰り出される運歩を、馬とのコミュニケーションによって、ライダーの望む運動を、間接的に作り出しているのが、乗馬であり馬術だということができるのである。

 内方姿勢は、馬の肩と口と後駆の3点を支点と力点としてパワーを駆使することによって、例えば左内方姿勢であれば、馬の口と後駆を左方向へ、肩を右方向のパワーを加えればでき、その逆が右内方姿勢ということになるのである。

 実際上左内方姿勢の場合は、レインと外方脚で口と後駆を左方向へプレッシャーを掛け、同時に内方脚で肩を右方向へプレッシャーを掛けることによって作り、その逆が右内方姿勢である。

 収縮と屈撓は、馬の頭頂と口と肩と後駆の3点(口と肩を一体と考える)を支点と力点として、ビットをピックアップして上方へプレッシャーを掛け、後駆はライダーが体重を鐙ではなく極力シートに負重させることによって、馬の口元は上方へプレッシャーが掛けるから、馬の口と肩は上方へパワーが及び、このことによって馬の首が屈曲して頭頂が引き下げられる。そして後駆はライダーの体重が下方へ押し下げるパワーとなって働き、結果として頭頂部と後駆は下方へパワーが加わり、口と肩は上方へパワーが加わるので、馬の頭頂と後駆が馬体の下で互いに距離を縮めることになって、収縮姿勢が生まれるのである。

 して屈撓は、収縮させるために行う馬の口元と頭頂との関係性をだけを捉えていっていることであって、レインをピックアップして馬の口元を上方へ引き上げることで、首が屈曲して口元は上方へ頭頂部は下方へパワーが加わり、顎を引き頭頸部が屈曲することを指して屈撓というのである。

 カーブビットは、シャンクとチンストラップによって梃子の構造を持っており、レインをピックアップするとシャンクが上方へ引き上げられ、その力はチンストラップが支点となって、頭頂部がその逆方向に引き下げる力に転換するのである。

 つまり、レインをピックアップすると、シャンクは上方へ持ち上げられるので、馬の口は引き上げられて、その力はチンストラップが支点となって、馬の頭頂部へは逆方向である下方へ働き、頭頂部は引き下げられるのである。このことが屈撓なのである。

 屈撓や収縮や内方姿勢に限らず、馬の取る姿勢において、ライダーが強制力を以てこれを作り、コミュニケーションによって馬を駆動して、馬に取らせた姿勢によって繰り出される運歩によって、色々なパフォーマンスを可能にしているのが、馬術なのである。

 ライダーが、この馬の姿勢についての理解を、馬術上の一つや、ドレッサージュに求められるパフォーマンスの一つだという程度の認識では、乗馬そのものを曲解したり誤解したりする要因を作り出すことになってしまうのであり、馬術の向上のために、馬の姿勢を作るという課題を、何よりも優先して取り組むことが重要なことなのである。



                 2013年 3月 11日

                 著者 土岐田 勘次郎


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