VOL.40 「問題馬の矯正」 |
2013年8月号 今月のテーマは、問題馬となってしまったレイニングホースの矯正についてである。 問題馬となってしまったレイニングホースの症状は様々だが、その中で良く見られるものは、ショーペンに入るのを拒否したり、入ると興奮してしまったり、ランダウンに入ると暴走してしまったり、スピードサークルでエキサイティングしてしまったり、チェンジリードの際に、急激にスピードアップしたりキッキングしたりするケースである。 これらの症状を矯正するために、どのような方法があるかに言及する前に、このような症状になっているときに、馬のムーブメントがどうなっているかを考えてみたい。 つまり、馬が興奮しているときや、ランダウンで暴走しているとき、チェンジリードでキッキングしたりスピードアップしたりしているときや、ショーペンに入るのを拒否したり、ショーペンで興奮したりした直後の駈歩のムーブメントが、テクニカルムーブメントになっているのかメカニカルムーブメントになっているのかである。 必ずしもメカニカルムーブメントが、ライダーにとって不都合なわけではないが、馬がライダーにとって不都合な状態や運動になっているときは、必ずメカニカルムーブメントになっているのである。 メカニカルムーブメントは、馬の自然なムーブメントで、馬は静止状態で前肢と後肢の体重配分が、6:4になっていて、そのまま運動すると、自然にアンバランス→ ステップ → アンバランス → ステップという循環のムーブメントなる。そして、このムーブメントの特性は、筋肉運動が最小限ですむ省エネ運動であり、惰性的要素の大きい運動なのである。 惰性的運動とは、一旦動き出すと急激に止めたり制動したりすることが困難だということだ。 一方テクニカルムーブメントは、ステップ→重心移動 → ステップ → 重心移動 という循環のムーブメントで、前肢と後肢の体重配分を、後肢へ50%を超える割合になるようにバランスバックしなければできないムーブメントなのだ。 例えば、ランダウンのときの暴走や馬の勝手なスピードアップのときの、ムーブメントは、必ずメカニカルムーメントになっているのである。また、スピードサークルでのエキサイトしたハイスピードのときもそうで、チェンジリードの直後に急激なスピードアップしたときや、ショーペンに入って興奮してしまったときの馬の動きもまたそうなのである。 メカニカルムーブメントは、首の動きでバランシングをして、地球の引力を利用した省エネ運動であり、馬の体型構造に適した運動で、むしろこの運動ができるように馬は、進化した動物だといえるのである。 ところが、この運動は前述したように惰性の割合が大きく制動性に劣性があり、一旦暴走してしまうと当事者である馬にとっても制動しにくいし、エキサイトしている状態では尚更コントロールしにくいムーブメントだといえるのである。 |
一方、テクニカルムーブメントは、ステップを初動作で起こさなければ運動できないので、筋肉運動の割合がメカニカルムーブメントより大きくなり、筋肉を動かそうという意志が働かなければ始まらないムーブメントなのである。 筋肉運動の割合が大きくなるので消費エナジーが大きくなる一方で、制動性が高くなるという特徴を持つ。 従って、問題馬の矯正には先ずそのムーブメントから見直すことが効果的で、つまりムーブメントをテクニカルムーブメントに切り替えることによって、制動性を高めることによってその問題が解決するのである。 問題馬の共通項としてのムーブメントが、メカニカルムーブメントであることから、このムーブメントをテクニカルムーブメントに切り替えることによって、解決の糸口に立つことができるのである。 問題馬を矯正するための万能薬は、ムーブメントの切り替えであり、テクニカルムーブメントにすることであり、そのために馬の体重配分を後肢へとより多くを負重するようにバランスバックすることなのである。 テクニカルムーブメントは、馬が意図を以て筋肉運動を発動しなければ始まらないムーブメントであり、よりエナジーを消耗する運動であるから、促進するよりも抑制する方向性を持つムーブメントであり、馬が冷静さを取り戻したりコンセントレーションしたりすることを促すことの糸口を掴むことができ、その上で各々の問題特有のことを解決するようにすることが肝心なのである。 このムーブメントの切り替えなしに、諸問題におけるメンタルだけを解決しようとしても、馬自身にもどうしようもないことなので、メンタルは益々困惑して、エキサイティングしたりコンフューズしたりしてしまうだけで、問題の解決をすることはないのである。 問題馬の矯正において、その問題の原因を追及することは、重要なことだが、原因としての視点が間違ってしまうと、矯正に繋がらないし再発の防止もできないのである。 それは、ライダーの乗り方として、一貫性がなかったり、コミュニケーションができなかったりなどの要因を原因視したとしても、問題そのものを矯正するためには、あまり意味を持たないことなのである。 問題の原因とは、その問題を作ってしまったライダーの乗り方や扱い方などを指していることが多いが、問題がどんなことが要因となって、暴走や制動不能やアウトオブコントロールになっているかを考えるべきで、精神のいらだちや困惑や緊張によって、暴走や制動不能やアウトオブコントロールになっているとしても、その精神のいらだちなどは、誘因要素であって直接の原因と捉えるのは拙速なのである。 つまり、精神のいらだちや困惑や緊張したときにどんなことが起きて、制動不能などの問題が起きているのかを、追及することが原因究明なのである。馬の精神が、いらだったり極度な緊張をしたりしたときなどに、どんな運動(ムーブメント)になるから制動が極端に悪くなってしまうかが直接的原因であって、これを突き止めることによって、矯正することが容易になるし、再発防止するためにも有効な手段が明確になるのである。 2013年 7月 28日 著者 土岐田 勘次郎 |
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