VOL.41 「最低条件」 |
2013年9月号 今月のテーマは、私の思っているレイニングホースとしての最低条件について解説したいと思う。 多くのトレーナーがそれぞれ拘っていることがあると思うが、私はこれから解説することが最低条件だと思っていることがある。 頭頂からショルダーにかけて真っ直ぐにしたとき、外方の前肢に対して進行方向のインサイドへ外方後肢がステップすることだ。つまり、外方前肢よりインサイドへ外方後肢が絶えずステップする馬であることが、私のレイニングホースとしての最低条件だと考えている。 直線運動でいえば、外方前肢がリードに対して一番外方に位置して、次に内方前肢と外方後肢、そして一番インサイドに内方後肢が位置する姿勢(内方姿勢)である。 内方前肢と外方後肢が同一線上に位置することは、二蹄跡運動(トゥートラック)になるが、馬によっては内方前肢より外方後肢がややアウトサイドに位置する場合もあるが、この時外方前肢よりは外方後肢がインサイドに位置することが必要だと考えている。 外方後肢が外方の前肢よりアウトサイドにステップしたり位置したりすることは許せないと考えている。 馬の運動をコントロールする場合に、馬体全体が一体的に運動することが望ましく、一体的に運動していればこれをコントロールしやすくなり、一体的でなく首や前肢や後肢などのパーツが、それぞれ別のモーメントになっていれば、コントロールするために支点や作用点を幾つも持たなければならないからコントロールが複雑になりより難しくなる。 また、スライディングストップやロールバックやスピンなどのハードでハイスピードな運動では、無駄な動きが多くなって故障の原因になったり、ハイスピードそのものを維持しにくくなったり、バランスを維持しにくくなったりする。 この最低条件が整うことによって、外方脚のコンタクトで馬体全体を一体的にコントロールすることができるようになると考えていて、実際にこの最低条件が整うことによって、外方脚で馬体のコントロールをしているという実感を持っているのである。
この最低条件をトレーニングする場合、馬の頭頂からショルダーにかけて左右のレイン操作によって真っ直ぐにして、外方脚で外方後肢がインサイドステップするようにプレッシャーを掛ける。このとき馬によっては前肢がインサイドステップしてしまったり、なかなか外方後肢がインサイドステップしなかったりする。 外方の脚と外方のレインのコンビネーションで、これを許さないようにする。特に外方レインをライダーの腰へ引きつけるようにすると、外方後肢はよりインサイドへ推進でき、前肢がインサイドへステップすること防ぐことができるのである。 そして、左右のレインハンドをサドルのホークの少し前方に位置させて、馬のショルダーをこの位置でキープするという意識で、レインコンタクトすることが重要だ。 以上のように、外方後肢が外方前肢よりインサイドに位置するようになった時に、これまでレインハンドで感じていた馬からの圧力が抜けるような感じで軽くなるので、このタイミングでレインをリリースする。 飽くまでも外方後肢を外方前肢よりインサイドへ持っていき、このときに馬の方からレインハンドで感じてきた圧力を緩めるのを求めるのであり、ライダー自らレインを引いて馬の頭を下げようとしないようにすると共に、馬が圧力を緩めていないのにリリースしないようにすることが肝心である。 |
馬がレインハンドで感じる圧力を緩めないときは、更に脚のプレッシャーを強めて、馬から圧力を緩めるように仕向けなくてはならない。 馬は、この運動を求められるとき、後肢がインサイドステップすると同時に、前肢が後肢より大きな角度でインサイドステップすることが求められているのである。 外方後肢が外方前肢よりインサイドになかなか位置しないとき、そしてレインハンドで感じる圧力や緩まないとき、ショルダーや後駆の柔軟性を別々に求める。 馬首を外側へ曲げて(外方姿勢)、前肢寄りに外方脚を使って、ショルダーの柔軟性と前肢のインサイドステップを促し、この運動に硬さを感じればこれを取り除きスムースな運歩ができるようにして、このときレインコンタクトで前肢のインサイドステップを促したり、その逆によりアウトサイドへレインを引いて、前肢のインサイドステップをし辛くしたりしてこの運動を求め、できるだけショルダーの柔軟性を作り、このときに感じているレインハンドでの圧力が馬の方から緩める瞬間を待ってプレッシャーをリリーすることも重要であり、馬の方から圧力を緩めるように脚のプレッシャーを加減するのである。 また、リブケージや後駆の柔軟性や後肢のインサイドステップを促す場合は、外方姿勢を取らせるが首をあまり曲げずに外方脚を後肢寄りに使って、後肢のステップや外側のリブケージをバンプして柔軟性を求める。 スピンもラインダウンもロールバックもスライディングストップもチェンジリードもサークルの大小の切り替えも、馬の頭頂からショルダーにかけて真っ直ぐに保ち、外方前肢より外方後肢がインサイドに位置する(内方姿勢)態勢によって全てできると考えている。 スピンは、外方後肢が外方前肢よりインサイドに位置した状態からスタートすれば、充分内方後肢へ重心を負重して回転運動をすることになって、内方後肢を軸肢にしたピボットターンができる。決して内方後肢を1歩引いて始めたり外方後肢が軸になってしまったりすることはない。ロールバックも同様だ。 ランダウンは、外方後肢が外方前肢のインサイドに位置して走行することによって、推進力が馬体の重心を通過して効率のいい運動になることと、ストップの際に推進エナジーの進行方向と馬体が同一線上に位置するから、スライディングが曲がってしまうこともないのである。 サークルの大小の切り替え、特にハイスピードからスローダウンして小さいサークルへと切り替える場合、リードを変えてしまうことを防ぎ、それまでの馬の姿勢を維持してスモールサークへと誘導できる。 私は、この最低条件を作るためにトレーニングしていると言っても過言ではない。
これまでの体験上、この態勢を容易にできるようになった新馬で、良い馬のならなかった馬はいないし、この態勢を作れなかった馬に、グレートなレイニングホースになった馬はいない。 色々なトレーナーが作ったレイニングホースを乗ってきたが、この態勢ができない馬もいたし、できにくい馬もいたが、そのトレーナーの感覚や拘りや精度を、これによって推し量ることができると思っていたし、ノンプロライダーの馬の再調教においても、この態勢がどの程度できているかどうかによって、かかる時間やトレーニングの進め方も変わってくるし、ノンプロライダーの技量もまた知ることができるのである。 レイニングホースを初めて以来、この態勢作りを最低条件として拘って、この態勢作りから始まって、パーツパーツの柔軟性やステップなどのこの態勢から離れたところまで手を伸ばし、やがてこの態勢に戻ることが、レイニングホースを作ることでありパフォーマンスすることであると思っている。
2013年 8月 21日 著者 土岐田 勘次郎 |
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