Horseman's Column title

    VOL.49「シチュエイション 状況 形成 情勢」



                                                 

 2014年5月号


 今月のテーマは、馬をトレーニングする場合におけるシチュエイションについて解説したい。

 トレーニングを極論すれば、プレッシャーとリリースのコンビネーションによって馬に学習を促すこということで、ライダーと馬との上下関係を始めとする関係性を構築するものだ。

 このとき、我々は、トレーニングの手法をあれこれと考えるものの、どんな状況や情勢の中で、その手法を実行するかをあまり意図的に選択をしようとしないものだ。

 しかし、誰でもが当たり前のように、馬がエキサイティングしていたりナーバスになっていたりしているときと、リラックスしたり集中したりしているときとでは、同じことをしてもその反応はまるで違うものになることを知っている。
 知っていることであれば、馬のメンタル面でだけではなくて、フィジカルのバランスや姿勢や前進気勢やポジショニングなども、トレーニングの手法と同時にシチュエイションとして考慮に入れるべきではないかということである。

 フィジカルの形成や情勢とは、常歩や駈歩などの歩様や、内方姿勢や外方姿勢などのフレームや、サークルや直線運動やスピンやスライディングストップなのパフォーマンスや、バランスバックやフォーワードなどのポジショニングなどである。
 特にバランスのポジショニングで、馬とライダーとで作る合成重心の位置が違えば、同じようにプレッシャーとリリースを繰り返しても、結果はまるで違うものになるということである。

 つまり、バランスフォーワードとバランスバックとでは、同じようにプレッシャーとリリースをしても、馬の反応と構築されるムーブメントやメンタルの有り様がまるで違うということだ。

 概ね馬術家の命題は、如何に後肢を踏み込ませるか、ストライドを大きくするか、前進気勢を旺盛にするか、収縮させるかなどが上げられ、これらは、馬が自然態勢でバランスフォーワードであることから、如何にバランスバックさせるかということになるのである。

 そして、バランスバックさせることが、ライダーが馬上で、馬の運動や反応を詳細にコントロールするために都合がいいと考えられているからなのである。

 

 しかし、今回バランスバックが、如何にライダーにとって都合がいいかということが云いたいわけではない。

 バランスバックとフォーワードの状態とでは、同じようにプレッシャーをかけても、馬はまるで違うことをされたことになり、当然その結果もまたまるで違うものだということだ。
 つまり、ビットプレッシャーは後肢が踏み込んだときに、かけるべきだということである。

 もっと具体的にいえば、後肢が踏み込んだときとそうでないときに掛けるプレッシャーとでは、馬の反応がまるで違うということだ。









 このことは馬術家にとって至極当然で誰もが知っていることで、脚で前進気勢を促し、その結果ホールドしているレインハンドに馬からの圧力が生まれて、そのまま更に推進すると馬がビットに対して譲る態勢を見せて圧力が緩むとき、レインをリリースするということである。

 何故、誰もが知っていることを態々ここに解説するかといえば、馬がビットに対して譲る態勢を作るようになるまで、旺盛な前進気勢や踏み込みを作れるのは可成りの上級のライダーでなければできないからである。

 しかしながら、以下のことはどんなレベルのライダーであってもそれなりの成果を上げることができることで、先ず、馬が後肢を現在より少しでも踏み込んだときに、初めてビットプレッシャーを掛け、レインをホールドした状態から推進するには上級者でなければできないが、レインコンタクトは極力フリーな状態で後肢の踏み込みを自らの座り方で作り、踏み込んだときにビットプレッシャーをかけて、馬にこのプレッシャーに従順に譲らせることによって、馬は収縮し且つライダーのコンタクトにコンセントレーションすると共に従順性を作ることができるのである。

 つまり、収縮と柔らかい反応とコンセントレーションと従順性が一挙に作られるのである。

 馬が能動的に収縮の態勢を維持して、自ら頭の位置を保ち、レインコンタクトに対して些かの抵抗を見せることはない。

 ライダーがトレーニングのために施すプレッシャーとリーリーは、馬が置かれている条件下が違えば、生まれる結果もまた全く違ってくることを理解して、馬のバランスがどの位置にあるときにプレッシャーを与えるかが重要で、トレーニングする上でライダーの技量が尤も問われることは、推進力でありバランスバックであり後駆の駆動であり後肢に深い踏み込みである。

 

 しかし、ライダーのレベルがどんなに隔たっていようとも、これらのシチュエイションを作るのを脚の推進力を以てするということであれば、ライダーの技量の差が如何ともしがたいものとなるが、ライダーのレベルなりに1ステップを自らのポジショニングと補助的な脚力によって作り出して、このタイミングでビットプレッシャーを与えて、徐々にバランスバックとこれを受け入れる馬のフレームを作れば、これまでにない躍進をすることができるのである。

 つまり、誰でもが作れるのである。

 ライダーが騎乗するときに、どのようなプレッシャーを掛けるかだけではなく、どのようなシチュエイションの元にプレッシャーを掛けるかを考えて、馬とのコミュニケーションを取るようにすべきなのである。
 そうすることによって、誰でもライダーのレベルに関係なく推進力を高めたり馬の従順性を高めたりすることが、バランスバックや後駆の推進を作り出すことができるのである。

 ライダーは、トレーニングの手法だけでなく、シチュエイションを意図的に選択して、馬とのコミュニケーションを取らなければならないのである。







                 2014年 4月28日

                 著者 土岐田 勘次郎


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