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    VOL.51 「重心とムーブメント」



                                                 

 2014年7月号


 今月のテーマは、騎乗しているときの重心のポジションとムーブメントの関係性である。

 ライダーが騎乗しているときは、馬の重心とライダーの重心との合成した質量の中間点が重心となる。そして重心と駆動肢の着地点との関係によってムーブメントが作られる。



 馬でも人間でも、自然な動きはなるべく筋肉運動を軽減して、消耗を避けようとするもので、それは、重心を移動してからステップするメカニカルムーブメントとなり、運動そのものをよりコントロールしようとしたり急激な反応が求められたりするときは、活発に筋力を発揮するので、ステップしてから重心の移動を筋肉力によって行おうとするテクニカルムーブメントとなる。

 馬は、特に前肢よりに重心があるので、メカニカルムーブメントが発達している動物で、重心の移動を首の上下動によって促し、この重心の移動に伴ってステップする。しかし、このメカニカル運動は、省エネであり直進運動の継続には適しているものの、方向の転換や運動の精密なコントロールには対応しにくいので、筋肉運動を先行して重心移動を行うテクニカルムーブメントを駆使して、馬術を展開するということになる。

 テクニカルムーブメントを行うには、駆動肢の着地位置が重心の前方に位置する必要があって、メカニカルムーブメントはその逆で、駆動肢の着地位置が重心より後方に位置する必要がある。

 従って、馬術は、駆動肢の着地位置をより前方へ踏み出す(後肢の踏み込み)と同時に重心を後方へ位置(バランスバック)するようにして、テクニカルムーブメント作るのである。

 

 馬の駈歩は、主に外方後肢が駆動肢で、内方後肢と両前肢は、主に体重を支える役目を担っている。

 そこで、後肢の着地位置と重心の位置との関係によって起きるムーブメントを考えてみよう。

 馬体を左側面から見た場合、後肢の着地位置が重心より後方にあるときは、重心は絶えずグランドへと落下する運動ベクトルを持ち、駆動肢は着地直後にグランド蹴り下げるのでその反作用として、絶えず重心より後方の後駆を持ち上げる運動ベクトルを持つので、必然的に反時計回りの回転モーメントになる。

 この逆に、後肢の着地位置が重心の前方に位置するときは、重心は下方へ落下する運動ベクトルを持つことは同じだが、後肢の着地直後は、グランドを蹴り下げるのでその反作用として、重心より前方の前駆を持ち上げる運動ベクトルを持つようになるので、必然的に時計回りの回転モーメントになる。







 従って、馬術的には、多くの方向変換やスピードの切り替えを求められるので、時計回りのモーメントによる運動が必要となり、元々馬はこの時計回りのモーメントで動くことは訓練して適応する能力を身につけなければできないので、バランスバックをするトレーニングが根幹となって馬の調教が構成されているのである。

 レイニングにおけるスライディングストップは、後肢の運動は絶えずグランドを押し下げるように働いているので、その反作用として馬体を持ち上げることになる。この場合、後肢の着地点が重心より後方に位置していれば、重心より後方の後駆を持ち上げることになると共に、重心より前方の前駆を押し下げることになる。そして、前駆が押し下げられることが後肢をより後方へと送る力となるので、後肢はグランドコンタクトを維持することができなくなりスライディングすることはできない。

 

 一方、後肢が重心より前方へ着地しているときは、後肢が絶えずグランドを押し下げるように働いているので、その反作用として馬体を持ち上げるので、重心より前方の前駆を持ち上げることになり、同時に後駆は押し下げられるので、この力は後肢を更に前方を押し出し、更なる反作用として前駆の重量が後肢を押し下げるので、後肢がグランドコンタクトを維持してスライディングすることになるのである。

 馬のナチュラルなムーブメントは、前肢で体重を支え後肢で推進するメカニズムで、とても合理的であり省エネなのだが、スライディングストップやスピンターンやロールバックをするには、そのままナチュラルなムーブメントでは、故障し易く運動そのものに無理がある。

 そこで、後肢で体重を支えると共に後肢で推進する必要があり、そのために重心を後肢の着地位置より後方へ移動したり、重心より前方へ後肢の着地位置を持っていったりする必要がある。

 また、運動を精密にコントロールするには、運動をコントロールしようとする前に、運動そのものがコントロールされやすいムーブメントである必要がある。

 つまり、メカニカルムーブメントの場合は、省エネであり運動の継続が容易であるからこそ、ライダーは勿論馬自身にとっても、運動のオンオフや方向の転換などのコントロールがし難く、テクニカルムーブメントは、体力の消耗がより多くなるが、コントロールすることが容易になるのである。

 そして、メカニカルムーブメントとテクニカルムーブメントは、駆動肢である後肢の着地位置と重心の位置との関係によって決定する。

 つまり、後肢の着地位置が重心より後方にあれば、メカニカルムーブメントになり体力の消耗を軽減し、運動の継続と直線運動を容易にする。一方、後肢の着地位置が重心より前方にあれば、テクニカルムーブメントになり筋肉運動をより活発にして体力の消耗は大きくなるが、運動のオンオフや方向の転換などを容易にすると共に軽快な運動を実現する。




                 2014年 6月30日

                 著者 土岐田 勘次郎


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