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    VOL.52 「運動の概念」



                                                 

 2014年8月号


 今月のテーマは、乗馬における運動の概念を考察することにする。

 ライダーが馬をコントロールして運動をするときに、運動のベクトル(方向性)やスピードやパワーなどについて、どのような概念を持っているかによって、当然のように駆使する手法が違ってくるのではないかと思い、今月は、このテーマを取り上げてみたいと思う。


 大雑把に言えば、馬を何処にステップさせるかによって、運動のベクトルが決まると考えるか、それともどんなモーメント(慣性モーメントMoment of Inertia)の運動エナジーを作ることによって、結果としてステップが生まれて、運動のベクトルが決まると考えるかによって、ライダーは駆使する手法が全く違ってくるのではないだろうか。

 例えば、どんなステップをさせるかによって運動ベクトルが決まると考えれば、そのステップをさせるために、レインや脚やシートなどのプレッシャーを組み合わせて、そのステップを要求する。一方、何らかのモーメントを作るかによって、運動ベクトルが決まるという概念を持っていれば、レインや脚やシートのプレッシャーを組み合わせて、そのモーメントを作ろうとする。つまり、馬の肢が要求するステップをするように、躍起になるということがないのである。

 ライダーは、馬の背中に乗ってしまうので、ライダーが馬に与えられるプレッシャーは、最低でも二つ力点があって、一つだけの力点でのプレッシャーに絞ることは絶対に不可能だ。しかし、自らの体重を一方向へ傾けることにおいてだけ力点を一つに絞ることができる。

 何故なら、ライトレインを引いて馬の頭を右側へ引こうとしても、何処かでその引く力に耐えうる力で支えることになるから、最低2点の力点が生まれるのである。(力点と支点という言い方もできる。)
 そして、ライダーが、馬のステップをダイレクトに要求することは、決してできない。脚が直接馬の肢へプレッシャーを掛けることはないし、レインコンタクトも直接には馬の口であり、口の下に肢がついているわけではないからだ。

 力点と支点と作用点の全てが同一物体上に位置するのが乗馬だから、与えるプレッシャーが、直接的に馬のフィジカルを運動させることはできない。

 力点と支点と作用点が同一物体上、つまり馬体にあることを活用して、何らかの慣性モーメントを作り出して、結果として馬の運動を作り出して、且つそのベクトルをコントロールする。

 慣性モーメントには、大別すると直線と回転との二つに分けることができ、最低二つの運動エナジーが、ある特別な組み合わせをしたときだけ直線のモーメントになり、その直線の組み合わせ以外は、全て回転のモーメントになるのである。

 直線のモーメントは、二つの運動エナジーの大きさが同じで、そのベクトルがパラレル(平行で交差することがない状態)で同じ方向であるときや、二つの運動エナジーが何らかの角度で交差したとしても、それらの運動エナジーの大きさが同じとき、または、二つの運動エナジーのベクトルが一致するか全く逆になるにしても同一線上にあるときで、この場合は、それらの運動エナジーの大きさが違っていることには左右されない。
 この3つのケース以外は、直線のモーメントになることはなく、直線のモーメントになるには、この3つのケー以外はあり得ないのである。






 そして、上記以外のケースは、全て回転のモーメントが作られ、二つの運動エナジーのベクトルがパラレルで同じ方向であっても、多少のエナジーの大きさが異なるときは、大きい方の運動エナジーの方向の回転モーメントが形成される。例えば、大きい方の運動エナジーが小さい方の運動エナジーの右側にあって、ベクトルが右から左へというベクトルの場合、右回転モーメント(時計回り)になる。
 また、二つの運動エナジーが何らかの角度で交差している場合、この二つのエナジーの大きさに差があるとき、大きい方の運動エナジーの回転モーメントが形成される。例えば、大きい方の運動エナジーが小さい運動エナジーの右側にあり、右から左へのベクトルの場合は、右回転モーメントになる。

 

 そして慣性モーメントの運動ベクトルは、直線であっても回転であっても、水平方向と垂直方向とがある。

 回転モーメントは、運動ベクトルが一元的で一方通行であるが、中心線を境にして左右に区分して俯瞰すると、左右は全く逆のベクトルを示すのである。回転モーメントの中心(軸)は、左右の運動エナジーが同量である場合は、その中間点に位置し、二つの運動エナジーに差があるときは、運動エナジーの大きさに反比例して、小さい方の運動エナジーへ、その差に反比例して近づくのである。

 回転モーメントを乗馬に当てはめると、回転モーメントの中心(軸)が前後肢の間に位置すると、前肢と後肢のステップ方向は全く逆向きになり、前後肢の外側に位置するときは、前肢と後肢が同じ方向へとステップする。また左右の肢の間に回転モーメントの中心が位置すれば、左前肢と右前肢の運動方向は逆になり、後肢もまた同様で、左右の肢の外側に回転モーメントの中心が位置すれば、左右の肢のステップは同じ方向になるのである。

 以上のように、運動を慣性モーメントとして捉え、直線でも回転でも、そのモーメントのベクトルを水平方向と垂直方向との両方で、左右の方向性を馬の運動の概念として持つか、前肢や後肢のステップの組み合わせとして、馬の運動の概念を持つかによって、レインや脚やシートのプレッシャーの仕方が全く違ってくるのである。

 人間で、機械でも、その進化形のロボットでも、直線運動しか作ることはできない。しかし、直線運動のままでは、生産性が極めて限定されるので、回転運動に変換する必要があって、二つの運動エナジーを同一物体上の異なる場所に作用させて、回転運動に変換する。

 天体の軌道もまた、本来は直線運動で、その中心となる天体の質量が大きくて空間が歪み、空間の歪みによって衛星の直線軌道を曲げられるということだ。

 例えば、太陽系だと、太陽の質量が大きいので空間が歪み、その歪みにより地球の直線軌道が曲げられるから円軌道で太陽の周りを回るのだそうだ。

 直線運動を回転運動に変化するには、同一物体上に最低二つの力点を起き、二つの力点のエナジーの大きさに差が出るようにするか、何らかの角度で交差させるか、互いのベクトルを違えるようにする。

 更に、この回転モーメントを、直線や曲線や回転の運動としてアウトプットする。

 上達の謎を解くには、運動の概念を慣性モーメント(直線モーメント、回転モーメント)としての視点に変える必要があるのではないだろうか。




                 2014年 7月18日

                 著者 土岐田 勘次郎


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