Horseman's Column title

    VOL.54 「問題の解決におけるムーブメント」



                                                 

 2014年10月号


 今月のテーマは、馬のメンタル的異常反応解消についてである。

 馬術は、人が馬のフィジカルに乗り、人と馬とのフィジカル同士の接触によってコミュニケートし、または互いのフィジカルに負荷をかけることによって、ライダーが馬の運動をコントロールするものである。

 ライダーの要求が、馬のメンタルの理解やフィジカルの可動域の範疇を超えたとき、メンタル的には反抗したり混乱したり興奮したり、フィジカル的にはフリーズしたりバランスを失ったり転倒したり故障したり疲労したりする。

 しかし、大凡フィジカル的に問題が発生する前に、メンタル的な反応が生じて、反抗したり混乱したり興奮したりするのである。

 フィジカル的反応の前にメンタル的反応が出るのは、フィジカルに故障が起きるのを防御するために、警鐘を鳴らすシステムだ。

 従って、ライダーは、馬が反抗したり混乱したり興奮したりしたとき、また集中が切れたり従順性を失ったりしたとき、何らかの許容範囲を超えた要求したと理解することができる。

 そこで、馬が反抗したり混乱したり興奮したとき、馬のメンタルにだけにコミュニケートしても、問題の本質はフィジカルにあるのだから、その本質を解決しない限りメンタル的症状を解消できないのである。

 馬が反抗したり混乱したり興奮して集中を欠いたり従順性を失ったりしたとき、先ずライダーは、馬のムーブメントがどのようになっているかを考慮する必要がある。

 レイニングホースが反抗したり混乱したり興奮したりしたとき、アウトオブコントロールとなって、ランダウンでは暴走したり、サークルではスピードコントロールができなくなったりガイドが難しくなったり、ヘジテイションでは、馬がじっと停止して指示を待つことができなくなったり、ライダーのキューイングを先読みして停止や発進を見切り発射したりしてしまうなどの現象が見られる。

 以上のような症状が見られたとき、要求をレベルダウンしたり馬を叱責したりするだけでは、その症状を解消することはできない。

 つまり、馬のメンタルに注意を促したり叱ったり宥めたりするだけでは、馬がライダーの意向を理解したとしても、馬自身自らのフィジカルをコントロールできなくなっているのでどうにもならないことが多く、問題は解消しないのである。

 馬自身が自らの運動をコントロールできなっている状態とは、メカニカルムーブメントで、坂道をボールが転げ落ちていくようなムーブメントで、惰性で運動しているといっても良い状態にあることが多いので、馬が冷静さを取り戻して意図的運動をしようとしない限り、この惰性運動を制御することはできないのである。







 メカニカルムーブメントに対してテクニカルムーブメントは、重心(この場合、位置エネルギーと言い換えることもできる。)を、筋力によって移動させる運動で、反射的筋肉運動でない筋肉の初動作のスィッチや運動そのものや目的などを意図することになりメンタルを動員する。

 筋力を駆使する運動は、メカニカルムーブメントに比べてはるかにメンタルを動員する運動なので、反抗や混乱や興奮を結果的に治めるというよりそれどころではないということになり、また、運動自身が坂道を上るようなものだから惰性運動ではないので、何よりも運動のコントロール性能を大きくすることができるので、アウトオブコントロールから脱出できるのである。

 ランダウンにおける暴走やサークルにおけるスピードの制御不能や、集中度や従順性の低下などを解消するには、テクニカルムーブメントに切り替えることによって可能になるのである。

 つまり、筋肉運動の割合を大きくするムーブメントに切り替えることであり、それは、バランスバックなのである。

 バランスバックして運動をするようにすれば、馬は集中して従順性が増し、ライダーにとってはよりコントロール性能を高めることになるし、レイニングホースの求められるパフォーマンスの精度も高まるのである。

 馬のメンタルが異常をこしたとき(興奮や反抗や混乱など)、ライダーの要求レベルを下げて落ち着かせるのは、再びそのレベルの要求をすれば、同じ現象が起きるのであり、メンタルの異常を克服したことにはならないのである。

 勿論、一時的に要求レベルを下げて馬を落ち着かせるのは、戦略的に正しい方法であるが、それで落ち着いたからといって解決したと思うのは、浅はかなのである。

 馬がエキサイティングしたとき、先ず落ち着かせるために、要求レベルを下げて、例えば駈歩から速歩や常歩へと落としたり、スピーディな運動からスローな運動へと切り替えたりし、落ち着いた後にテクニカルムーブメントにするためにバランスバックすることが、何よりも本質的解決することなのである。

 ハインドクォーター(Hindquarter後駆)・リブケイジ(Ribcage胸郭 脇腹)・ショルダー(Shoulder肩 肩胛骨)・ポール&ネック(Poll & Neck頭頂 首)マウス(Mouth 口)などの可動域の増幅と柔軟性を求めるエクササイズを施し、そしてバランスバックを求めるようにして、徐々にテクニカルムーブメントに切り替えるようにして問題を解消しなければならない。






                 2014年 9月25日

                 著者 土岐田 勘次郎


HOME

ホームへ戻るボタン

Eldorado Ranchへのメール reining@eldorado-ranch.com
TEL 043-445-1007  FAX 043-445-2115

(c)1999-2010. Eldorado Ranch. copyright all rights reserved.
このサイトの
記事、読み物、写真等の無断使用は禁止とさせていただきます。