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    VOL.59 「ポジショニング Positioning」



                                                 

 2015年3月号


ポジショニングというと、ライダーのシートの位置や姿勢と考えるのが一般的で、馬術におけるポジショニングとは、そのような単純で軽薄な意味ではない。

また、ポジショニングをライダーのシートの位置や姿勢だと考えてしまうことは、そのライダーの馬術の向上を著しく阻害してしまう。

乗馬におけるポジショニングとは、ライダーが騎乗した状況下での合成重心の位置づけのことで、その位置は、馬のムーブメントを決定付ける要因であり、馬の全ての運動はこの重心の移動で、ライダーが馬の動きをコントロールするということは、この合成重心の位置をコントロールするということに尽きるのである。

ライダーがどのような姿勢でシートに自らの体重を負重させるかは、馬術上のほんの入り口でしかないが、この入り口に立つことによって馬の重心の位置が左右され、重心の位置が変わることによって馬のムーブメントが変わり、ムーブメントが変わることによって、更に重心の位置を制御でき、あらゆるパフォーマンスに大きな影響を与えることができる。また、ライダーによる馬の運動の制御精度が向上する要因なのである。

乗馬においてライダーが馬に与える指示命令は、大きく二つに区分でき、それはキューイング(Cueing 合図)とエイド(Aid 扶助)である。

キューイングとは、馬が理解したときに初めて意味を持つもので、メンタルワークとして成立する。一方エイドは、運動エナジーの方向や反射や推進と抑制などによって、馬の運動の方向性や大きさや促進したり抑制したりするもので、運動エナジーの作用そのものであり、極論すれば馬のメンタルの作用がなくても馬の運動を制御できるものである。

このエイドをクリエイトするための要因が、ポジショニングであると考えることができる。

そして、ポジショニングとは、極論すれば騎乗時におけるライダーと馬とで形成される合成重心の位置なのである。

重心とは、質量の中間点で、ライダーが騎乗した場合は、ライダーと馬との合計質量の中間点が合成重心であり、馬の体勢(Posture)とライダーの姿勢によって位置が決定し、体勢や姿勢が変化すれば同時に合成重心の位置は、その変化に応じて移動するものなのである。

そしてまた、運動とはその物体の重心が移動することであり、重心移動が起きることによって物体が運動する場合(メカニカルムーブメント)と、何らかの外的作用を以て重心を移動させて運動する場合(テクニカルムーブメント)とがある。







馬の運動にもメカニカルとテクニカルムーブメントとがあり、馬はこの二つのムーブメントを明確に区分して運動しているわけではないが、ポジショニングによって、どちらかが主体的なムーブメントになるのかが決まるのである。

放牧場でリラックスして馬が歩くとき、最初の2〜3歩はテクニカルムーブメントになるが、その後は粗メカニカルムーブメントになるということが学者の研究によって分かっている。このメカニカルムーブメントになった時、馬は肢の筋肉運動をしていないことが立証されているのである。

馬が首を前後に往復運動することによって、巧みに重心の位置を移動させ、これを支えるためにステップする動作を繰り返しているのである。

このメカニカルムーブメントは、筋肉力を最小限にする運動なので体力の消耗が軽減されるのである。

人間が走るとき腕を振るのも同じ作用なのである。

馬のムーブメントは、重心の位置と後肢の着地位置との関係で決まる。

後肢の着地位置より重心が前方に位置する場合は、メカニカルムーブメントになり、重心が後方に位置するときはテクニカルムーブメントになる。メカニカルムーブメントは、省エネ運動だがコントロール性能が低く、テクニカルムーブメントは、コントロール性能が高いが体力の消耗が激しいというそれぞれの特徴がある。

このムーブメントを自在に切り替えることができれば、必要に応じて省エネで運動をしたりコントロール性能を高めたりできるということだ。

馬の屈撓や収縮で代表される体勢は、重心の位置をコントロールするためにあり、馬の重心は、自然に立っている状態では多少個体差はあるにせよ第4肋骨付近にあるといわれ、前肢寄りに位置しているので、馬が何ら制約無しに運動しているときは大方メカニカルムーブメントで運動していて、競走馬の疾走はこのメカニカルムーブメントを多用していると考えられし、一方馬術は、前後左右と運動方向の変化を自在に操作するので、重心を後方へ移行させて前肢の負重を軽減して方向の転換を容易にしている。

つまり、ポジショニングは、馬の屈撓や収縮などの体勢や後駆の踏み込みなど、そしてライダーがとる姿勢によってコントロールされるもので、それは求められる運動の主体的ファクターとして役割を果たすものなのである。






                 2015年2月24月

                 著者 土岐田 勘次郎


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