VOL.60 「良い馬の定義」 |
2015年4月号 今月のテーマは「良い馬の定義」で、「乗馬は馬を、良くするために乗り、ライダー自身の上達を期すものではない」と長年訴えてきた手前、その良い馬とは一体どんな馬のことをいうのかの定義が必要だと思う。 それはライダーそれぞれが定義すればいいことかも知れないが、定義が曖昧では、目的がはっきりしないことになり、乗馬を何のために行うかが明確にならない。 「良い馬」を定義することによって、良い馬にするためには何をすればいいかを明確にして、「良いライダーとは、どんなライダーなのか?」「乗馬のスキルとは、一体どんな技術をいうのか?」など、乗馬に必要だとされるスキルや目的やトレーニング法を明確にさせるのではないだろうか。 「乗馬は、馬を良くするために乗り、自らを上達せしめるためのものではない。」ということを言い始めた1990年に定義していた良い馬とは、「軽い扶助で駈歩をして、決して暴走しない馬」ということだった。 何故なら、こんな馬が一番ライダーを育てるからであり、乗馬を愉しめるし、何よりも人が馬を慈しむことができるようになり得ると考えたからである。 そのときから四半世紀を迎える2015年に、改めて「良い馬」の定義を見直して、更なる乗馬の革新をしたいと思う。 乗馬とは、馬をコントロールするもので、重心の動きつまり運動エナジーのベクトル(方向性)をコントロールするものともいえる。 ものの運動ベクトルとは、最低二つの運動エナジーが作用したとき、その二つの運動エナジーの角度と大きさの中庸に決定する。つまり、ビリヤードで台のエッジに球が当たったとき、入射角と反射角が同じになって、球が反発して動くのと同様なのである。 ものの運動方向や運動力をコントロールしようとすれば、そのものに最低二つの運動エナジーを与えて、その中間にものが運動することを利用するということになる。 馬体の体勢(姿勢や気勢)や運動を作る場合、推進と抑制という二つの運動エナジーを駆使して、その二つの運動エナジーの中庸が屈曲して形成し、運動ベクトル(方向)もまた同じように推進と抑制の二つの作用の中庸に決定付けられるのである。 以上のような運動ベクトルのメカニズムから推測すれば、この二つの運動エナジーに対して容易に対応する馬が「良い馬」という定義に該当し、「良いライダー」とは、巧みに二つの運動エナジーを操作できるライダーだと定義できる。 従って、ライダーが馬に作用させる二つの運動エナジーに対して、容易に対応するとは、どんな馬なのかということになり、より良く対応する馬とは柔軟な馬であり、良く曲がる馬ということになる。 |
そして、良い馬の定義とは、「良く曲がる馬」ということになる。 この「良く曲がる馬」とは、推進とビットコンタクトによる抑制の二つの運動エナジーの作用により、馬体が屈曲することである。 しかし、馬の関節や骨格の形状や機能により曲がれるところと曲がれないところがあり、それは、き甲から頭頂の頸椎と仙骨の付け根とが屈曲可能で、き甲から仙骨の付け根までの脊椎は、成馬になると殆ど縦方向へも横方向へも屈曲できない。また、前肢の間接は、後に屈曲することはできるが左右や前方へ屈曲することはできないし、後肢は球節と飛節は後方へ屈曲することはできるが左右と前方へは屈曲できない。そして、股関節は、前後左右への対応ができる構造をしている。 以上のことを考慮した上で、馬が良く曲がるには、フィジカルの柔軟性と重心の位置とメンタルの従順性と理解で、フィジカル・バランス・メンタルの3要素が主要なファクターと考えられる。 フィジカルの柔軟性は、主に前駆(フロントクォーター)の頸椎や肩(ショルダー)、胸郭(リブケージ)、後駆(ハインドクォーター)の3ヶ所の柔軟性である。 重心は、第4肋骨にある重心をできるだけ後方へ移行させる(バランスバック)ことによって、頸椎や前駆にかかる負重を軽減することができるので、ネックをベンドさせたりビットコンタクトに対する反応の柔軟性を発揮させたりできる。 メンタルの従順性と理解は、ライダーからのプレッシャーに対して、反抗的であったり、キューイングの意味が理解できなかったりすれば、当然抵抗なく反応できないので、ライダーの指示に対して柔軟に反応するには、馬の従順性と訓練度が必須要件なのである。 従って、「良く曲がる馬」とは、フィジカルが柔軟で、メンタルが従順で、バランスバックしているという3拍子揃ったときなのである。 「良く曲がる馬」にするためのトレーニングとは、以上の3要素を同時に行うことで、馬体に最低二つの運動エナジーをプレッシャーとして与えたときに、バランスバックさせるポジショニングのための姿勢でライダーが騎乗し、二つの運動エナジーをプレッシャーとして与えて、馬体をストレッチさせてフィジカルの柔軟性を求めて、これに馬が反応したときプレッシャーをリリースしてメンタルの従順性を育む。 唯これだけのことで、以前から誰もが既にやっていることである。 しかし、「良い馬」の定義を「良く曲がる馬」として、そのための何をすればこの良く曲がる馬になるかを意図的に、プレッシャーとリリースをするかはまるで違う世界を創造できることを知ることになるのである。 2015年3月 1日 著者 土岐田 勘次郎 |
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