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    VOL.61「レイニングにおける主要要素」



                                                 

 2015年5月号


 今月のテーマは、レイニングホースにおける主要要素についてで、レイニングホースがどのような構成要素によって、パフォーマンスを発揮しているのかを考察してみたい。

 馬の運動には、メカニカルムーブメントとテクニカルムーブメントの2つがあって、そのものの質量が位置エネルギーで、その位置エネルギーが運動エネルギーに変わることによって起きる運動(物体が落下するときに見られる現象)(メカニカルムーブメント、内因性運動)と、外的作用(筋力やその他の外圧)がそのものの質量を超えたときに起きる運動(テクニカルムーブメント、外因性運動)である。

 この2つのムーブメントは、重心の位置とこれを支持する4肢の着地点との相関関係によって決まり、屈撓や収縮や内方姿勢などの馬体のフレームによって重心の位置や4肢の着地位置が移動して、ムーブメントを決定付ける要因となる。

 馬の運動方向は、重心移動の方向であり、運動エネルギーの方向は、運動エネルギーの持つベクトルとこれに交わるもう一つの運動エネルギーとの中庸に決定する。つまり、推進エネルギーと抑制エネルギーの2つの運動エネルギーが交差して、そのエネルギーの大きさや交差する角度の中庸に運動の方向が決定する。
 推進は、脚やシートやライダーと馬との体重がその要因で、抑制は、レイン操作による馬の首の運動を止めることで、重心の移動を止めることに繋がるのでその要因となる。

 また、運動の方向と4肢のステップとの関係性は、馬の頭頂から臀部に至る中心線に対して、前肢と後肢の踏み出し角の差によって、後肢の角度より大きな角度で前肢が踏み出せば、前肢の踏み出した方向に馬は運動し、後肢の踏み出し角が前肢より大きければ、そのステップの方向と逆方向へ馬は運動する。

 馬の重心は、大凡第4肋骨付近にあると云われており、馬体重は、前肢へ6割前後、後肢に4割前後負重しているそうだ。
 そして、放牧場で馬がのんびり歩いているときは、おおよそ肢の筋力を使わず歩いているようで、首で重心移動をしてこれを支えるようにステップしているので、肢の筋力を使わずに歩けるのだそうだ。
 つまり、メカニカルムーブメントで歩いているのである。


 そして馬の重心は、ライダーが騎乗したときは、馬とライダーの合成質量の中間点に位置するので、ライダーの姿勢や馬のフレームによって重心の位置は移動するので、ライダーが前傾すればバランスフォーワードに、後傾すればバランスバックになり、屈撓したり収縮したりすればバランスバックになり、首が伸びた状態や後肢の踏み込みが浅ければバランスフォーワードになるのである。

 バランスバックになれば、テクニカルムーブメントになり筋力運動が多くなりエネルギーの消耗が多くなる反面コントロール性能が高まり、バランスフォーワードになれば、メカニカルムーブメントになり筋力運動が最小限化して省エネ運動になる反面コントロール性能が低くなる。

 乗馬の特殊性は、ライダーの乗馬における役割にある。

 乗馬以外のスポーツは、人が直接運動に関わっていて、乗馬においてはライダーが馬を駆動することには直接関わっていないという点である。

 ライダーが騎乗中に、物理的パワーによって駆使できることは、馬のフレームを変えることで、フレームを形成することによって重心の位置や4肢の位置をコントロールすることである。
 馬の動き出す第1歩は馬のメンタルが作用しなければならないが、馬の姿勢を形成してムーブメントを決定付けることができるのである。

 



 馬のパフォーマンスは、運動のベクトルとステップのベクトルと重心の位置の3要素で作られているので、馬のメンタルの従順性の元に繰り出されるムーブメントを、馬のフレームを強制的に作ることによって、結果的にコントロールするのである。

 サークル運動におけるスピードコントロールは、バランスフォーワードでスピードアップして、バランスバックで推進力を減退させてスローダウンする。


 スピンは、バランスバックして内方後肢に負重して、前肢に負重する重量を軽減して、軸肢回転を行っている。

 スライディングストップは、ランダウンのときにバランスバックしたまま走行して、後肢が重心より前に着地しているときにストップ態勢に入ることによって、後肢にはグランドから突き上げられる力が働き、重心より前に後肢が着地しているので、グランドコンタクトをしたままを維持してスライディングすることになるのである。

 ロールバックは、スライディングするときにバランスバックしているのでそのままの態勢でターンして、ライダーが前傾して徐々にバランスフォーワードへ移行させて駈歩発信しているのである。

 またチェンジリードは、運動ベクトルを移行していることなので、基本的に馬体の対角線を運動エネルギーが通っているので、反対側の対角線上に運動エネルギーが移行することなので、収縮して運動エネルギーの移行を容易にして行っているのである。

 さて、ライダーは、馬のフレームをどのような強制力で作っているのだろうか。

 それは、回転モーメントを活用することで行っている。

 馬体を左側面から俯瞰したとき、レインをサドルホーンの少し前でピックアップすれば、馬のショルダーを上方へ持ち上げると同時に、ライダーはシートを支点にしてレインをピックアップしているので、シートを下方へ押し下げることになって、馬体に右回転のモーメントが働くことになって、後駆はより深く踏み込むことになり、前駆は屈撓してショルダーがビルドアップすることになって、収縮ができることになり、バランスバックすると同時に筋力の運動に対する負担を軽減するのである。


 また、馬体を上空から俯瞰したとき、左サークルであれば、輪線に沿って後方へレインを引き、外方後肢をインサイドへ向かうように外方脚でプッシュすれば、右回転モーメントが働き左内方姿勢が作られる。
 右回転モーメントによって左サークルをすれば、遠心力に対して後肢がこれに逆らってインサイドステップするから、肩が倒れることなくサークル運動ができるのである。
 その逆の右サークルの場合は、右内方姿勢を左回転モーメントを働かせて作り、左回転モーメントで右サークル運動をすることによって外方後肢が遠心力に逆らってインサイドステップするから、肩が倒れることなくサークル運動ができるのである。

 ライダーは、強制的に馬のフレームや回転モーメントを作り、重心と4肢の相関関係をコントロールして、ムーブメントや運動のベクトルをコントロールすることができるのであり、更にこのときプレッシャーとリリースを駆使して、馬の従順性を育んで、この両輪によって馬をコントロールしているのである。


2015年4月15日
著者 土岐田 勘次郎


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