Horseman's Column title

    VOL.71「ホースマンシップ」


 2016年3月号

 今月のテーマは、ホースマンシップで、これについて幾許かの考察をしたいと思う。

 我がランチが1990年にスタートした時点で、エルドラドランチが乗馬社会でなすべきテーマとして掲げてきたことでもあるこのホースマンシップは、それまでの日本の乗馬社会において、人が馬を扱う上での心得として、備えていなければならないこととして存在していたかは大いに疑問である。特にウエスタン乗馬社会には甚だかけていたからこそホースマンシップを、我がランチの果たすべき役割として掲げたのである。

 2016年の今日でもホースマンシップについて、大きな革新があったとは思えないが、何れにしてもこのホースマンシップの概念が、日本における乗馬社会が世界のリーダー国と肩を並べるようになるためのキーワードととなるとと確信する。

 先ず、ホースマンシップの序章は、馬の特筆を理解することから始まる。馬という動物の正体を知るということは、飽くまでもホースマンシップの序章に過ぎないのであって、少なくても乗馬や馬術の世界では、入り口であり手がかりであり、馬と人とがコミュニケーションするためのチャンネルなのだ。

 ところが、日本でのホースマンシップは、それ自体で完結してしまうような、自己満足でしかない耳障りの良いものになってしまう傾向にある。

 日本の伝統的な言い回しとして、「犬は3日餌を与えるとその恩を忘れない」というのがあるが、動物に対する日本人の思い入れの典型ではなかろうか。

 ホースマンシップだけで完結するとは、例えば馬に接近するとき斜め前方からというのが原則で、それは馬同士のフレンドシップのときの行動から来ていて、肩をこすりあって馬同士がフレンドリーな仕草を見せるからであるが、人が馬に接近するとき斜め前方から肩へ向かうようにしましょうというのが、自己完結的ホースマンシップなのである。

 これでは、意味がないのであって、馬の特性を知ったときに、この特性を活用して、この特性に依存しなくても馬を扱えるようにしてこそ、本来のホースマンシップと言えるのである。
 従って、この場合は、最初は馬の斜め前方から接近するようにして、徐々に何処からでも人が接触しても、安定した状態を保つような馬にするというところまで行ってこそホースマンシップと言えるのである。
 つまり、斜め前方というのは、飽くまでも人が馬に接近するための入り口であって、徐々に訓練して何処からでも人が馬に近づけるようにするところまで達成して、自己完結ではなくなるのである。

 馬は、メンタル的には、とても緊張しやすかったり、怖がりだったり、アンバランスに対して敏感だったり、フィジカル的には、前肢の関節が後方へ屈曲できるだけで、前方へ屈曲したり回転運動ができない、後肢の球節は前肢と同じで後方へのみ屈曲し、飛節は前方へのみ屈曲し、両方とも回転運動はできない、そして股関節は、前後左右への運動が可能である。

 そして、とても重要なことは、第4肋骨付近に重心があるということである。

 また、ムーブメントとして、 馬の自然な運動は、肢の筋力が主体ではなくて、首の振り子運動による重心移動の運動エナジーを活用して動いているので、人が首の運動をハミをつけてコントロールして、馬の動きをコントロールできるというメカニズムなのである。(メカニカルムーブメント)
 しかし、馬は肢やその他の筋力を以て運動することもできる。(テクニカルムーブメント)

 メカニカルムーブメントは、重心移動が首の運動によって起きて、これを支えるためにステップするという運動で、テクニカルムーブメントは、先ずステップし、次に負重している肢の筋力で重心移動する運動である。

 

 更にまた、成馬の馬の脊椎は柔軟性がなく機能的に曲がることができないために、肉食獣のように背中を柔軟に曲げて効率良く走ることができない。しかし、効率良く走るために馬が獲得した走法が斜体速歩や斜体駈歩で、これらは運動エナジーが馬体の対角線上を通ることによって、馬の中心を運動エナジーが通過できて運動効率を確保しているのである。

 これらの馬の特性から究極的に考案されたのが、収縮であり屈撓なのである。つまり、収縮や屈撓は、ホースマンシップの究極だと言えるのである。
   従って、ドレッサージュやジャンピング、そしてレイニングやカッティングなどの馬術は、究極のホースマンシップなのである。また、最高の馬術は、究極のホースマンシップでなくてはならないのである。つまり、馬の特性を極めて活用されたものが馬術なのだということで、パフォーマンスが馬の健康やメンタルの健全性を損なうものであってはならないのである。



 また、人間も含めた多くの動物が持っている機能で、感覚統合という機能を馬も持っている。それは、動くものを視線でだけ追いかけるのではなく、体もこれに連動して追いかける機能で、カッティングはこの機能を最大限に利用していると言えるものである。

 更にまた、  馬の最大の特徴は、群れをなし、その群れはボス社会を形成しているということだ。ボス社会を形成する群れには法律が存在するので、動物の思考力が養成されるので、訓練特性が高いということになり、同じようにボス社会を形成する犬は訓練特性が高く、ボス社会を形成しない猫は、訓練が難しいのである。

 馬が怖がりで緊張しやすい動物であるにも関わらず、大勢の前でパフォーマンスできるのは、ボス社会の群れで生活する動物だからとも言えるのである。

 馬を扱うときの鉄則は、絶えずスロースピードに徹することである。例えば、近づくときは、馬に近づくことを認知させた上で、ゆっくりと、リードロープやレインを引くときや脚でプレッシャーをかけるときは、ゆっくりと0・1・2・3というようにカウントできるぐらいのスピードで行ない、人が馬の反応の始まりを察知して、馬の反応が始まった段階でプレッシャーをリリースできるようにする。
 そしてまた、ハンドラーやライダーは、絶えず今かけているプレッシャーが限りなく0に近づきたいという心がけを持たなければならない。例えば、同じ反応を求める場合、一回目より二回目、二回目より3回目と徐々にプレッシャーを弱くして、限りなく小さいプレッシャーで済むことが美學とならなければならない。
 しかし、プレッシャーは限りなく0に近づくことを旨とするが、プレッシャーが0のとき、馬は反応してはならないこともまた鉄則なのである。

 馬に駈歩を指示して脚でプレッシャーをかけるとき、必ず0・1・2・3・4とカウントするように徐々に力を加えていって、5のプレッシャーをかけたとき馬が駈歩発進した場合、ライダーが5のプレッシャーで駈歩になったことを学習して、次のときいきなり5のプレッシャーをかけていれば、やがて馬は6・7・8と強いプレッシャーでなければ、駈歩の反応をしなくなってしまうのである。しかし、5で駈歩をした馬だとしても、必ず0・1・2・3・4・5とプレッシャーを加えるようにすれば、馬はやがて5のプレッシャーを予測して4や3で反応を示すようになるのである。

 このようなシステムは、ホースシンキングを活用する方法であり、ホースマンシップなのである。

2016年2月26日
著者 土岐田 勘次郎


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