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    VOL.76「スピードコントロール」


 2016年8月号

 今月のテーマは、スピードコントロールで、レイニングのマヌーヴァーでは、サークル運動で如何にスピードの緩慢を顕著にできるかが問われ、スピードサークルからスローダウンしたり、スピードサークルからリードチェンジして直後にスモールスローへと移行したり、スモールスローからラージファーストへと移行したりするケースがある。

 スピードコントロールは、スピードサークルから如何に大きなコンタクトなしにスローダウンするかが問われるといっても良いし、レイニングの醍醐味でもあるともいえるパフォーマンスである。

 さて、私の場合は、スピードコントロールは、メンタルワークとフィジカルワークを組み合わせて行うと考えている。
 つまり、馬のメンタルだけをトレーニングすればいいと考えているわけではなくて、フィジカルワークとしてのバランスコントロールが必要だと考えている。
 それは、スローダウンする時、バランスバックしたり収縮したりすることで、スローダウンできる馬の体勢を形成することが必要不可欠だと考えているわけである。

 このフィジカルワークが重要で、もしフィジカルワークが充分でなければ、スローダウンしたときにフレームが崩れたり、ガイドの精度が落ちたりしてまったりして、結果的にスローダウンが悪くなってしまうことになるのである。

 サークル運動でスピードアップするときは、スライディングストップのアプローチとしてのランダウンと違って、バランスフォーワードで走行しているので、バランスバックして重心をより後駆へ移行させることによって推進力を減退させ、スローダウンを図るのである。

 以上がスピードコントロールにおけるフィジカルワークで、バランスバックするように指示して、馬がこれに反応してスローダウンしたときプレッシャーをリリースし馬のメンタルにも学習させ、フィジカルワークとメンタルワークを連携させるのである。

 フィジカルワークとして重心のコントロールをするには、馬体の柔軟性が必要なので、ネック・ショルダー・リブケージ・ハインドクォーターの柔軟性を養成しなければならない。今までフレームワークについては述べてきたので、ここでは触れない。

 重心のコントロールは、重心と馬の頭や後肢の位置関係とライダーのポジショニングによって決まると考えることができる。
 馬の重心は、第4肋骨付近にあると云われ、馬は自然体ではバランスフォーワードなのであり、この重心の位置はそのままで後肢が踏み込めば、重心が後駆へ移行したといえるし、前駆(ショルダーからヘッドまで)を持ち上げれば重心自体が後方へ移動する二つのケースが考えられ、この二つの両方ともバランスバックするとき同時に行っているのである。

 

 つまり、馬は自然体でバランスフォーワードなので何らかのアクションを起こさない限りバランスバックしないし、それは二つのケースがあり、重心を後方へ移動させることと、後肢を踏み込ませてより重心に近づけることである。

 そして更に、ライダーのポジションニングとは、後傾や前傾を云うのではなく、ライダー自身の体重を鐙に負重するかシートへ負重するかだと考えねばならない。つまり、鐙に負重すればバランスフォーワードになりやすく、シートに負重すればバランスバックになりやすいポジションなのである。
 ライダーのポジショニングとは、ライダー自身の体重を馬の何処へ負重するかという意味で、姿勢ではないのである。
 しかし、馬社会の常識では、ライダーのポジショニングは姿勢だとされているので、ご注意願いたい。ライダーが前傾しようが後傾しようが、鐙に負重したままで行えば、バランスフォーワードになりやすく、シートだけに負重していればバランスバックになりやすいのである。

 従ってスピードサークルのとき、ライダーが鐙により負重するように姿勢を取り、スローダウンにするときシートへ負重するように鐙を踏み込まないようにすれば、物理的にバランスバックへと移行すると同時にバランスバックの合図となり、これを馬は察知してバランスバックしてスピードを減退せるというメカニズムなのである。

 これらのメカニズムが機能するには、馬の柔軟性とトレーニングとしてバランスワークを充分に施して、何時でもライダーの指示があれば馬がバランスバックするようにしておくことが不可欠なのである。

 バランスワークは、スピードコントロールよりも、スライディングストップやリードチェンジやスピンにおいて重要視されてきたが、スピードコントロールにおいても重要なファクターであることが今日では常識化しており、世界のトップトレーナーの馬の柔軟性が際立っているのは、バランスワークのレベルが高くなっているからなのである。

 スピードコントロールのパフォーマンスを、馬のメンタルだけに頼ったトレーニングしていると、ショーイングのときその精度が落ちてしまうことが多々ある。それはショーペンで馬が緊張したりコンセントレーションを欠いたりしてしまいがちなので、リスポンスが悪くなってしまうからである。
 そのためにもフィジカルワークを基盤として、スピードコントロールを作っておかなくてはならないのである。
 何故なら、バランスバックすれば推進力が物理的に減退するからである。

 余談だが、スライディングストップのアプローチでバランスバックすれば、推進力は減退するので、ライダーはより馬に対して強い影響力を持たなくては、物理的に減退している推進力を上げることはできないのである。

2016年7月5日
著者 土岐田 勘次郎


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