今月のテーマは、スピンである。ターンアラウンドと表現されることもある運動で、
内方後肢をピボットとして360度ターンをする運動だ。
この運動は、基本的にサークル運動の最小単位の運動だと考えることができ、
前後肢共に、内方肢に対して外方肢がクロスオーバーしてステップし、回転運動をする。
このとき回転半径が最も小さくなることによって、内方後肢が軸(Pivotピボット)
になって体重を支えて回転運動をする。
規定では、飽くまでもウォークの歩様でのステップが求められ、
ステップが飛んだりリズムが一定でなかったりすると評価が下がり、
スムースで速いターンが要求される。また、軸肢のポジションが一定のところをキープすることもまた要求され、
スピンしながら場所を移動してしまうのも評価が下がる要因となる。
スピンは、飽くまでもウォークの前進運動である。
初心者の多くに見られる間違いは、スピンをしようとする意識が強いあまりに、馬の前進気勢を失ってしまうことで、
馬が停止したり後退してしまったりしてスピンにならないことが多い。
スピンに限ったことではないが、馬の運動においてビットやレインは、
馬の運動を抑制する役割を担い原則的に促進することはできないから、
スピンをしようとして、左右のレインを横に引いて回そうとすれば、馬の前進気勢が損なわれて、
停止してしまったり後退してしまったりしてしまうわけだ。
スピンをする場合、両脚で前進気勢を作りその前進エナジーを損なうことのないようにしながら、
レインとビットで抑制のプレッシャーを掛けて、前進気勢を横に転化させるようにしスピンターンを行う。
またスピンは、いうまでもないことだが回転運動なので、あらゆる運動の中で一番求められるのが、
安定したライダーのバランスで、ライダーが回転運動の中でバランスが安定しなければ、馬はその影響を受けて軸肢回転が崩れて、
回転する軸のポジションを一定の場所に保てないし、歩様もまたスムースでなくなってしまうのである。
理想的スピンは、馬が頭頂から臀部に至るまでのラインが一直線になって回転することで、回転のアークが大きくなって、
大きなスピンターンとしての動きに映るのである。
只、馬によって多少内方姿勢を取った方が、前肢のクロスがスムースになることもあるので、ジャッジの評価が、
内方姿勢を取った場合と馬体が一直線になった場合とで違うということはない。
ジャッジの評価は、軸肢のポジショニング、スムースな前肢のクロス、そしてスピードが速いということである。
スピン運動をさせるために、前進気勢と抑制のプレッシャーの関係を記述したが、実際のショーイングをするレベルとなると、
外方レインのネックタッチでスピンターンをするよう行う。
厳密に記述すると、外方レインのネックタッチの時にライダーのポジションが停止しているのをキープして、
レインとライダーのシートのコンビネーションでスピンを行う。レインのネックタッチに合わせてライダーのポジションを前傾すれば、
馬はロールバックして発進する。だからスピンとロールバックとの区別をするために、レインのネックタッチは同じでもライダーのポジショニングの違いで、
馬はスピンターンかロールバックかを判断するのである。
ライダーが、スピンの時にバランスが取れるようになるためには、スピンの最中に、鐙に肢を踏ん張ってバランスを取ることを止めなければならない。
シートに座って鐙に踏ん張ることを止めれば、回転の中心を感じ取ることができ、そのポイントに座ることで、
馬にとっても回転運動を邪魔するモーメントが消えてスピンしやすくなるのである。
ライダーのヘルプは、必要最小限で、ヘルプする必要がなくなるようにという配慮が何よりも大切である。
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スピンターンは、軸肢となる内方後肢で回転モーメントとしてかかる負重を支えなくてはならないが、
そのバランスを支えることができなくなることによって、前肢の歩様が乱れたりポジショニングが動いてしまったりと、
色々な乱れが出てこれらを修復するために、馬の頭の位置をホールドしたり下げさせたりするが、この方法でスピンが良くなったからといって、
この方法を続けていれば、馬はこのヘルプに頼るようになってしまうから、
レインのホールドを止めた途端にスピンのスムースさが崩れてしまうようになってしまう。
このような副作用をなくすためには、レインのホールドによってスピンが改善したら直ぐにホールドを解放して、崩れたら直ぐにホールドし、
決してスピンの動きが改善したにも関わらずホールドを続けてはならないのである。
このようにすることによって、ホールドしなくても馬は自分自身の肢で、充分にバランスを取って、スムースなスピンをするように学習するのである。
またショーイングにおいてスピンは、大変リスクのあるパフォーマンスといえるもので、1/8を超えてのオーバーアンダースピンで−1/2のペナルティ、
1/8を超え1/4以下のオーバーアンダースピンで−1のペナルティ、1/4を超えてオーバースピンをすればスコアペナルティ0となる。
つまり指定の場所で、スピンをピタリと止めなければ、大きなペナルティが伴うパフォーマンスだということだから、
スピンの精度を良くすることと同程度に、停止することもまた重要なポイントであるということがいえる。
このスピンのストップのトレイニング法は、トレイナーによって色々な方法があるが、私の場合は、
トレイニング中に「ウォー」といって停止するように促し、このときにレインも同時に緩めるようにする。
そして馬が停止しなかったときや、ピタッと止まらなかったときは、必ず数歩バックアップさせる。
これを何回も繰り返して行うと「ウォー」という合図で、ピタッとストップするようになるのである。
只スピンしてウォークアウトする場合は、決して「ウォー」と合図を送らないことは当然でいうまでもないことである。
スピンは、馬にとってもライダーにとっても、バランス感覚が要求されるパフォーマンスだということを熟知する必要があり、
ライダーが力んだりバランスの崩れを予期して鐙に捕まったりしないように注意しなければならない。
馬が、前進気勢を旺盛にすることとポジショニングを一定に保つことが相反することなので、前進気勢を旺盛に素早いスピンをするためには、
馬が軸肢にしっかりと負重して、バランスを取るようにならなくてはならないから、速歩らスピンに入り、
スピンから速歩で小さいサークル運動へと移行を繰り返すことは、とてもバランシングを良くする効果がある。
馬がスピンを学習するには、メカニズムとして一歩一歩回転運動のためのステップを繰り返して、
確実な一歩をトレイニングしなくてはならない。この段階で360度の回転運動を急いではならない。
そして確実なステップを馬が習得した後は、リズムとバランスを重要視して、トレイニングする必要がある。
スピンのトレイニング法は、別の機会に譲ることにして、馬にとってスピンターンは、とても難しいパフォーマンスだということを述べておきたい。
それは人間の関節とは違って、馬の肢は横の回転に対応できる構造をもっていない。関節が前後にしか曲がらないのである。
スピンターンの得意な馬は、その他のストップやサークル運動などのパフォーマンスにも優れた才能を持っているといわれているし、
レイニングホースでなくてもスピンの訓練をしておくことは、色々な意味でライダーが馬をコントロールする上で、
とても効果のあることだということを知ることは重要なことである。
2010年11月17日
著者 土岐田 勘次郎
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