2016年12月号
毎月更新しているホースマンズコラムも、2016年の最終回を迎えることとなりました。
多くの皆様のご愛顧に感謝申し上げます。
今年最終稿のテーマは、乗馬の原点ともいうべきホースマンシップである。
今では至る所でホースマンシップという言葉を耳にする。
「乗馬は、馬の頭に乗る。」というホームページで見て驚いた。
25年以上前にこのテーマで、記事にしたり全国各地で講習会を開催したりしたが、言葉が一人歩きしている感があり良いことでもありリスクも感じないわけではありません。
そこで、今年の締めくくりのテーマとして扱うことにした次第である。
ホースマンシップの考え方は、馬の特性を学び、人が馬の扱い方を学ぶことではない。人の訓練が全く必要ないということではないが、馬の特性を活用して、馬が人と接するためのマナーを学ぶことであり、人にこうしてはいけないあんなことしてはいけないという禁止事項の羅列をするのがホースマンシップではなく、馬に躾をする過程において、人と馬とが一緒に互いの付き合い方を学ぶことなのである。
ホースマンシップの考え方として、良く耳にする大きな過ちは、人が馬に寄り添うということである。人が馬に寄り添えば、人も馬も危険極まりなく、馬が誰を頼りにして良いか分からず不安を強調することになり、人にも馬にも良くないことなのである。
この間違ったホースマンシップは、日本社会ではとても耳障りが良いらしく、これは如何にも人が馬のことを思いやるという偽善的ホースマンシップなのである。
馬が人に寄り添うように、人間社会のマナーを馬が身につけることで、人は馬に優しく接することができ、人の要求を馬が理解できるからこそ馬にも安全が約束されるのである。
子馬が母馬から放されて飼育されるようになる頃に、ホルターブレーキングが行われる。
このとき馬は、生まれて初めて母親以外の第三者の拘束を受け入れる。
人間に、従わなければならないことと愛撫されることとを学ぶのである。初めは愛撫されることも叱られることも見分けがつかず、トレーニングによって愛撫と叱責の違いを理解して、人間の拘束を受け入れたときに愛撫が与えられることを学ぶのである。
さて、前置きはこれくらいにして本題に入ることにする。
先ずリーディングである。
リーディングで大衆が良く目にする光景は、競馬のパドックのテレビ中継だ。
私にとって、とても見苦しく、馬の躾がまるでできていない姿そのものとしかいいようがない。
日本最高峰の中央競馬におけるパドックでのリーディングを見れば、如何に日本のホースマンシップが遅れているかが分かる。
リーディングは、一般的に馬の頭から肩までの間に人が位置するといわれているが、私の考えはこれと違い、人間の立つ位置というより馬の立つ位置は、人間の肩の後方約40cm〜50cm(人間の腕の肘から拳までの長さ)の所だと考えている。
何故なら、馬が何処に位置すれば分かりやすいからで、リーディングされるとき人間の肩より前に出てはいけないという境界線がはっきりする。ところが、人間が馬の頭から肩までの間に位置するのは、境界線が曖昧で馬にとって立ち位置が分かりにくいのである。
原則として人馬共に進行方向を向いた状態で、人の右側に馬が位置し、1本のリードロープを、ホルターの顎下の中央部のリングに掛けて、拳から肘までの長さ位緩んだ状態で右手に持ち、リードロープの余っている部分を左手で持つ。このとき、左手に巻き付けるようにして持ってはならない。
何故なら、急な馬の動きがあってもリードロープに手が締めつけられないようにするためである。
また、1本のリードロープで持つことも重要である。
ホルターの両サイドに2本のリードロープを着けてリーディングするのをよく見かけるが、とても危険なので止めるべきだと思う。
何故なら、2本でリードロープを着けていると、馬と引き合いになったとき、ホルター全体に人の力が平均化してかかり、とても馬の力に抗しきれないからで、1本のリードロープなら引き合いになっても、人の力が馬に対して偏った力になり人が引き勝つことができやすいのであり、ホルターの顎の下の中央のリングにリードロープを掛けるのは、馬が左右どちらのサイドへ行ってしまっても、同じように対応できるからなのである。
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実際にリーディングして前進する。
このとき、人の前進に従って馬が前進し、人が止まれば馬も停止する。もし、人が停止して馬が人を追い越してしまったときは、リードロープで馬を後退させ注意を促す。これを数回繰り返せば、人が止まれば直ちに馬は停止するようになるのである。
このように、人が前後左右へ動くときも、馬が人の動きに沿って動いて止まるようにしなければならない。
このようにリーディングできれば、馬が人の動きを絶えず気にするようになるので、何かに驚いて急激な動きをすることもなくなり、人も馬も安全になるのである。
馬場中央でのマウント・ディスマウント。
マウント・ディスマウントは、馬が仕事を始める時であり終了するときなので、マウントもディスマウントもできるだけ馬場中央で行いたい。これもホースマンシップの重要な要素の一つである。
何故なら、馬場中央は、馬場の中で一番特徴がないところで馬が覚えにくい場所だからだ。
フェンスの近くやコーナーやゲートの近くは、馬場中央に比べて特徴がありここで何時もマウント・ディスマウントをしていると、場所と行為をパッケージングして覚えやすく、そこへ行けばマウントされるとかディスマウントされると予測して、そこへ行かなくなったり何でもかんでもそこへ行くようになったりするリスクを作ってしまうからだ。
同じ場所で同じ行動を繰り返せば、馬でなくても場所と行動を関連して覚えその場所に行けば自動的に同じ行動をするようになるので、リードチェンジやストップや馬を叱ることなどインパクトの強いことは、場所をランダムして行うのもホースマンシップの一つである。
洗い場へ行かなかったり馬運車に乗らなかったり特定の場所を嫌ったり、水溜まりや道路のドレーンを越えなかったりする場合は、プレッシャーとリリースの原則で、馬が行くのを嫌って停止する場所をボーダーラインと考えて、馬が停止したボーダーラインから10m位離れた場所まで戻り、そこで馬を後退させたり回転させたりしてプレッシャーをかけ、再びボーダーラインへ向かう。ボーダーラインより1歩でも前に進めばそこで愛撫し、更に前に進ませるようにし、再び停止したらまた10m位戻ってプレッシャーをかける。これを繰り返せば、嫌う場所をクリアできる。
但し、馬運車や道路のドレーンなどは、一度乗ったり通ったりしても、スムースに乗り降りしたり通れるようになったりするまで、何度も繰り返して中途半端に終わらせてはならない。もし1度や2度できたからといって止めてしまうと、却って抵抗が強くなってしまうものである。
この場合でも日本で良く見受けられる間違いは、あるボーダーラインを越えないときその場で馬にプレッシャーを掛けてしまうことだ。すると、馬は些細な理由で越えなかった場合であっても、その場所でプレッシャーを掛ければ、抵抗することを脳に固定化させ、抵抗が反抗として頭脳的学習をし固定化してしまうのである。
馬への近づき方の原則は、人が近づくことを馬に認識させて近づくということである。馬の肩に対して斜め前方から近づくようにするのがよいとされているが、どこからというより近づくことを馬に認識させた上で近かづくことが最も重要なことである。
馬上でロープをスィングしたり旗を持ったりすることを、馬が受け入れるようにするには、グランドワークとしてリードロープで3m〜4m位離れて人が立ち、リードロープの余った部分を振り回したり馬の肩へ投げかけたりして、最初は馬が驚いて後ずさりするが、リードを3m〜4m位を保つようにしっかりと持って、これを繰り返すようにすれば直ぐに馬は従順に抵抗しなくなる。
馬が後ずさりしたとき、リードロープを振り回すことを止めずに続け、馬が少しでも抵抗を止める仕草をみせたとき、リードロープを止めて上げるようにすることが大切だ。
ホースマンシップは、馬のトレーニングとして馬に要求することをしっかりと具体的にして、馬を指導する観点で馬の反応を見ることが重要で、馬が何を以て人から褒められるのかを見つけやすくすることが最も望ましい方法なのである。
ホースマンシップは、グランドワークだけでなく騎乗して馬をコントロールする上でもとても有効なことなのである。
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