2017年3月号
今月は、馬のフレームワークやバランスワークのトレーニングにおける概念として、馬体の二つのパーツの関係性を絶えず相対的に見ることで、地上の労働と同じように馬上で成果が得られる方法をテーマとして解説を進める。
ライダーは、馬上で馬を強制的に駆動することは不可能だが、馬体のフレーム(体勢や姿勢)を強制的にコントロールすることができ、フレームを変えることで重心の位置を変えることもできるのである。
そこで、馬体の柔軟性を求めるストレッチにおいての概念として、「相対性理論」がある。
ストレッチにおいて、ネックやショルダーやリブケージやハインドクォーターの柔軟性を養成しようとするとき、多くのライダーが無意識にこれらの一つのパーツだけに絞って柔軟性を促す運動をしようとしてしまい失敗する。
このことは、地上なら失敗しないが、馬上では失敗するのである。
概念として静態と動態があって、静態とは固定されていて動かない、動態とは固定されていないので動くというもので、これは概念上のことで、この世に静態というものは存在しない。
二つの物体を互いに引き合うと、この二つの物体間において、質量に差があれば、質量の大きい方を静態と認識して、小さい方を動態と認識するということである。何故なら、質量の小さい方が大きい方へ引き寄せられるからである。
このことを新幹線の時速300kmで走る車両で行うと、地上と同じように質量の小さい方が大きい方へ引き寄せられるが、このことによって、車両が時速300でkm走ることに対して何ら影響を与えることはできないのである。 これが馬上で行っていることで、ライ
ダーがサドルに座ってレインを引くことによって、馬の口をサドルへ引き寄せることはできるが、馬が動くことには関係ないし影響を与えることはできないのである。しかし、このストレッチを行っているとき、馬が勝手に動いてしまったときにライダーは大きな影響を受け、時にはバランスを崩してしまう場合もある。
従って、ライダーは、新幹線の車両の揺れに対処しながら物を引き寄せると同じことを馬上でやっているのである。
地上なら簡単に物を引き寄せることができても、馬上で首を曲げることが簡単にできないのは、馬の動きに対処しつつこれをしなければならないからなのである。
新幹線の車両の揺れや馬の動きに影響を受けないようにすることは不可能だが、認識上惑わされないようにするために「相対性理論」が効果的なのである。
それは、馬体のストレッチの時、静態と動態の二つを明確に認識するということであり、例えば、馬の首を右へ曲げるとき、首を曲げると考えるのではなく、馬のショルダー(静態)に対して馬の頭(動態)を右90°方向へ持ってくるというように、馬体の二つのパーツを相対的にその位置関係を意図するようにするということである。(相対的関係性・相対性理論)
従って、馬の首の柔軟性を養成する場合、ショルダーに対して馬の頭を右90°、左90°というように、またショルダーへ馬の頭をより近づけるように、リブケージに馬の頭を近づけるように、後肢へ馬の頭を近づけるようにというように、馬体の二つのパーツを相対的に近づけると考えることによって、馬の動きによってライダー自身が受ける影響と、ストレッチ運動とを分けて認識することが自然にできるようになるのである。
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静態を我々人間が完全に固定されているという認識を持つのは、二つの物体間の質量が圧倒的な差があるときなのである。従って、我々は地球の上に立っているにも関わらず地球の運動に影響されているという実感はないのである。しかし、載っているのが船や新幹線の車両の場合は、人間との質量の差が圧倒的な差ではないので、船や車両の動きに影響されていると感じてしまうのである。まして、馬上なら尚更で、ライダーは馬自身の動きに大きな影響をうけてしまうので、自分自身がレインを引っ張って馬の頭をショルダーへ近づけるようにしているにも関わらず、それどころではなくなってしまうのである。
これを払拭するための考え方が「相対性理論」なのである。
つまり、馬体の二つのパーツを明確に認識して、これらの相関関係においてストレッチを行うようにすることで、馬自身の動きとストレッチのための動きとを分けて認識できるように、二つのパーツの相関関係を認識してストレッチすることによって、その進捗を的確に把握できるので、馬に対してプレッシャーとリリースが単純化して分かりやすくなるので、馬のメンタルに対して大きな成果を得ることができるのである。
更にまた、馬にも認識があって、認識によって学習するので、その認識は支点ではなく、作用点または力点と運動とを関連付けて学習する傾向が強いということをライダーは理解しておく必要がある。
例えば、ショルダーに対して馬の頭を近づけるとした場合、馬の口が作用点になりレインを持っている手が力点になり、ショルダーが支点となる。従って馬はこのストレッチのトレーニングが進むことによって、馬はレインを引っ張れたとき、自らの頭をショルダーへ近づけると学習するのである。しかし、このときレインで馬の口をホールドして、脚でショルダーを馬の頭へ近づけようとすれば、馬の口は支点となり、ショルダーが力点であり作用点となるので、馬は脚を入れたときショルダーを頭へ近づけようと学習するのである。
多くのビギナーが、レインを引くと頭をショルダーへ近づけるように首を曲げてくれるが、レインをリリースすると直ぐに元に戻ってしまうという。それは、作用点が馬の口であり力点がレインを持つ手であることが大きな要因なのである。
上級者がやるとレインをリリースしても、馬が元に戻ろうとせず首を曲げたままでいるのは、力点と作用点が脚やシートでありショルダーやハインドクォーターであることが大きな要因なのである。
何れにしても、我々ライダーは、馬上で馬の動きをコントロールして様々なストレッチやバランスワークやこれらを駆使してパフォーマンスをする。
このためにライダーは、全てのコントロールにおいて、必ず馬体の二つのパーツを、相対的関係性を平面的そして同時に立面的に屈伸させることを意識的に行うことが重要なのである。
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