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    VOL.84「フィールの養成」

 2017年4月号

 今月は、ライダーのフィールの養成について考察してみたいと思う。

 ライダーのフィールとは、圧力を感じる感覚で、ライダーの体の先端で馬の反応を圧力として感覚的に捉えるスキルで、ライダーのジャッジメントの基盤となる。しかし、これほど重要なスキルであっても、これを養成する方法が確立されているとはいえないのが現状である。

 馬をコントロールする上で、最も主要な感覚は圧力を捉える触覚であり、フィールとは触覚のことである。

 視覚は、態々いうまでもなく目で捉える映像情報で、視覚がその他の感覚と大きく違うのは、加工情報であるということで、圧力や温度や音や味や臭いなどの素材情報に変換しないと理解できない情報なのである。
 これに比べて、触覚を一とするその他の感覚は、圧力は圧力、音は音、臭いは臭い、温度は温度というように、そのままの素材を別の形に変換しないでそのまま感じているのである。

 感覚情報に対応して運動器官が動くとき、視覚情報の場合は、映像情報をそのまま運動として現すことができないので、素材情報へ変換しなければならない情報なので、情報処理(解析や判断)に時間がかかるので即応性が悪いのである。
 しかし、視覚に比べ圧力情報である触覚の場合は、そのまま感知しているので、情報処理が圧倒的に短く単純なので、運動器官でその反応として現れるのに即応性があるのである。

 一方、運動器官が動く場合二つのケースがあり、その一つは目的を持ったときにその目的に沿って運動器官が動く場合と、もう一つは脳が直接運動器官をコントロールするようにして運動器官が動くケースとが考えられる。

 日常生活での運動は、感覚器官が感知する感覚情報を加味し目的に沿って、運動器官が感覚情報に反応するように動いて目的を達成している。
 例えば、お茶を飲んだりボールを蹴ったりするような場合である。湯呑みを持つ指やボールを蹴る爪先に、どのように動けばいいかを脳が直接コントロールすることはないのに目的沿って手足が動くのである。

 但し、ボールを蹴るのが不得意な人は、脳が足を直接コントロールしてボールを蹴ろうと練習するので、この練習の成果はあまり芳しくないのである。

 これと同様に、筋力を鍛えたりある特定の運動能力を高めたりする訓練となると、運動器官を脳が直接コントロールして行うのである。
 これらの方法は、結果的に感覚情報を無視して脳が直接運動器官をコントロールするので、間違った練習法なのである。

 運動システムは、目的に沿って初動作(ファーストアクション)を起こし、このファーストアクションで感知する感覚情報を脳が処理して、セカンドアクション以降は、直前の感覚情報の処理によって決定する運動器官の動きを、脳が運動器官に命じて運動器官が動くのである。

 この場合、運動器官の動きが感覚情報をリアルタイムに反映させていることが重要で、感覚情報の処理時間と処理内容とが問題になるのである。

 視覚と触覚を比べると、映像情報は情報量が大きく複雑なので処理時間が長くなりがちで、且つ情報の処理にミスが出やすいのである。
 これに比べて、圧力情報である触覚は、方向性と強弱の2極の情報処理なので、比較的単純で情報量が小さく、処理時間が短くて済むのである。
 情報処理して運動器官が動くのに時間がかかれば、次の事象が発生してしまうので情報処理した感覚情報が古い情報となって、現状にそぐわない運動になる畏れが出てしまうのである。

 従って、運動器官を機能させるための情報としては、視覚情報はその他の感覚情報に比べて向いていないといえるのである。


  日本において昔から、「心眼」という言葉があるが、この「心眼」とは、視覚情報以外の感覚情報を以て、現状を把握しろという意味なのであり、現状を視覚が把握していても、この情報を加味して運動器官を動かすには情報処理の時間がかかりすぎて、古い情報に基づいて動くことになってしまうので、視覚以外の感覚情報に基づいて情報処理をできるだけ短くして運動器官を動かすことが「心眼」の意味するところなのである。

 この違いを見ると、感覚情報を視覚か触覚で捉えているかによって、情報処理時間の関係性で、古い情報で身体が動くのか新しい情報で動くのかが違ってしまうということである。

 脳が直接運動器官をコントロールして運動することは論外で、現状を無視して身体を動かすこととなって、特定の運動能力を高めるためであっても、特定の筋力を鍛えるためであっても、運動能力が高まることはないし、筋力は高まってもこれに連動する筋肉がバランス良く鍛えられないので、故障の原因となってしまうのである。

 ライダーのフィールとは、視覚による映像情報を感知する能力ではなく、触覚を主とした圧力の感知能力で、感覚情報の処理時間が短くてすむので、運動器官がリアルタイムに感覚情報に反応するように機能するから重要なスキルなのである。

 従って、ライダーのフィールを養成するためには、視覚情報に頼らないことが重要で、視覚情報に頼らなければその他の感覚器官で状況を感知しようと自動的に行い、運動器官は視覚情報以外の主として触感を脳が認識すれば、この情報に反応するように運動器官が的確に動くようになるのである。

 ライダーのフィールは、感覚細胞で感知した圧力情報を脳が認識することであり、感覚情報が感覚神経を通じて脳へ送られても脳が認識しなければ、その情報はなかったこととなり、脳が感覚情報を認識したときだけその情報があったものとされる。

 つまり、感覚情報があったかどうかではなくて、その情報を脳が認識したかどうかなのである。従って、脳が情報を認識するためには、意識が感覚情報の発生点に向いていなければならず、意識が別の方向を向いていれば「火もまた涼し」といわれるように、火の熱ささえも感じないということになってしまうのである。
 意識が情報の発生源へ向かうためには、視覚情報ではなく、触覚情報を認識することでできるのである。つまり、触覚情報の認識を邪魔するのは視覚で、視覚情報が脳を拘束する大きな力を持っているので、映像情報以外の感覚情報を感知していても、脳は視覚に拘束されて触覚などの情報を無視してしまうので、フィールを養成するためには、自らの意識をコントロールする必要があるが、積極的に視覚情報を遮断するようにして、無意識になったときに知らず知らずに視覚情報に操られてしまわないようにしなければ、フィールが養成されないのである。

 ライダーのフィールを養成するには、敵を撃退しなければできないのであり、その敵とは視覚であり映像情報なのである。積極的に視覚情報を遮断することによって、必然的に視覚以外の感覚情報を認識するので、自然にフィールを養成できるのである。

 特別に脳が運動器官を直接支配下に置いてコントロールしようとしても、長く続くことはなく、視覚を遮断するように積極的に取り組みさえすれば、意識がプレッシャーの馬体との接触点へ向かい、このときに感じる圧力情報を脳は認識するようになるので、圧力情報を通して現状を把握したり解析したりして現状を理解する能力を持つようになり、的確な判断と短時間な情報処理能力を持つことになり、さらに発想力も旺盛になるので、フィールの養成は全能に通じる能力である「何処でもドア」のゲートとなる能力なのである。

2017年3月14日
著者 土岐田 勘次郎

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