2017年12月号
今年最後のホースマンズコラムのテーマは、トレーニングプログラムで、レイニングホースのトレーニングの筋道をどのように考えて、プログラミングするかについて解説する。
馬のトレーニングプログラムの上で根幹的要素は、ステップのコマンドとムーヴメントの二つと考えていて、その一つが馬の「ステップのコマンド(法則)」で、その法則とは前後肢共、内方肢に対して外方肢が外側を回ってステップすることで、これをステップのコマンドと名付けている。
そしてもう一つは、馬のムーヴメントで、メカニカルとテクニカルムーヴメントの二つがあることは既に色々な場面で解説しているが、パフォーマンスのそのときそのときの必要に応じて「ムーヴメント」を切り替えが必要になるので、この二つの要素がトレーニングにおける根幹的要素として、そのプログラミング全般に亘って中心的役割を担っている。
トレーニングの目的は、パフォーマンスのティーチングとそのクォリティを上げることで、この目的を達成するために、根幹的要素のステップのコマンドにおいては、ヴェクトル・スムース・ストライドのコントロール精度を上げることであり、ムーヴメントは、ストレッチやエクササイズで養成された柔軟性によって、二つのムーヴメントを自在に切り替えることができるようにすることである。
ムーヴメントは、重心の位置と後肢の着地位置との関係性で決まるもので、バランスフォーワードではメカニカルムーヴメントになり、バランスバックでテクニカルムーヴメントとなる。
重心の位置と後肢の着地位置との関係性で、重心が後肢の着地位置より後方に位置すればバランスバックとなりテクニカルムーヴメントで走行し、重心が後肢の着地位置より前方に位置すればバランスフォーワードとなりメカニカルムーヴメントで走行するメカニズムである。
そしてまた、馬体を左側から俯瞰したとき、テクニカルムーヴメントは右回転モーメント、馬の前駆が上へ後駆が下へ向くような回転モーメントとなる。またメカニカルムーヴメントは左回転モーメント、馬の前駆が下へ後駆が上へ向くような回転モーメントとなる。
準備運動で上記の「ステップのコマンド」と「ムーヴメント」をマクロとして考慮しながら、ウォーミングアップを兼ねてストレッチ運動を始める。
柔軟性を養成する馬体のパーツは、ネック(首)とショルダー(肩)とリブケージ(胸郭)とハインドクォーター(後駆)と考えている。
ストレッチとエクササイズにおいては、馬体の3点の組み合わせで構成すると考えていて、その3点とはポール(Poll 頭頂)とウィザース(Withers き甲)とハインドクォーター(Hindquarter 後駆)で、このPとWとHの組み合わせのヴァリエーションで行う。
例えば、進行方向に対して、PとHをインサイドにWをアウトサイドとか、PとHをアウトサイドにWをインサイドとか、PとWをインサイドにHをアウトサイドというように、この3点の組み合わせを変えてエクササイズやストレッチを行う。
そして、常歩と速歩とで行い、また前進とバックアップでも行う。
これらの準備運動によりストレッチとエクササイズを行い、柔軟性と反応を養成する。更に養成された柔軟性を活用してバランスワークとして、ムーヴメントの切り替えが自在にできるように訓練する。
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レイニングにおけるパフォーマンスは、サークル走行におけるスピードコントロールやスピンターンや、スライディングストップやチェンジリードやロールバックなどである。
スライディングストップのためのランダウンは、バランスバックによるテクニカルムーヴメントで走行することで、サークル走行におけるスピードコントロールは、メカニカルムーヴメントからテクニカルムーヴメントへの切り替えでスローダウンするものである。
また、チェンジリードは、推進エネルギーのヴェクトルの切り替えで、外方後肢から内方前肢へと馬体の対角線上を推進エネルギーが通っているのを、左から右や右から左へと切り替えることなのであり、この切り替えを容易にするためには収縮が必要となるのである。
スピンターンやロールバックにおける回転運動は、バランスバックによるバランスシフトを後駆に位置することにより前肢への負重を軽減して、回転運動を容易にしているのである。
また、スピードアップは、バランスフォーワードで行うのが自然で、慣性の法則が機能しているといえるので、その走行を維持する場合は支障はないが、スライディングストップのように急停止が伴う場合は、前肢への負荷が大きくなり故障につながり易いなどのリスクが伴い、そもそもスライディンストップができにくいので、バランスバックのままの走行が必要で、とても難易度の高いパフォーマンスであるといえる。
ストレッチやエクササイズと根幹的要素として捉えている「ステップのコマンド」と「ムーヴメント」との関係性はとても重要で、この根幹的要素をマクロとして念頭においてストレッチやエクササイズをしなくては、成果が現れないばかりでなく、却って馬に混乱を来しかねません。
例えば、ストレッチするとき前肢のステップのコマンドを守りつつ後肢はステップアウトをさせるとかのように、ステップのコマンドのコントロール下でストレッチをすることが意味を持つことになり、また内方姿勢での様々なエクササイズなどでも、バランスバックでするのかフォーワードでするのかを、マクロとして念頭においてしなくては、実際のパフォーマンスのときに成果を出すことができません。
以上のようにパフォーマンスの要素を考慮して、ストレッチやエクササイズによって、その構成要素を養成する為にトレーニングプログラムがある考え、ステップのコマンドとムーヴメントを根幹的要素として組織され、且つその順序もまた効率よく組み立てられなければならないのである。
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