Horseman's Column title

    VOL.93「馬上の作用点と支点」

 2018年1月号

 新年明けましておめでとうございます。
 本年もホースマンズコラムをよろしくお願いします。

 力の作用は、2点間の相対する力によって起きているもので、作用点で何らかの力を加えれば同時に支点において同量の力で作用点の力のベクトルと逆向きの力が作用します。どちらか一方ということはあり得ません。

 一方、モーメントは、直線と回転の二つがあって、直線モーメントは往と復の2方向があり、回転モーメントには左と右の2方向があります。

 作用点と支点の2点が直線上に位置するとき、その作用は直線モーメントとなり、直線上に位置するとは作用点と支点の力のベクトルが同一線で一致するということです。そして作用点と支点の力のベクトルがパラレルになったときに回転モーメントとなり、この二つの位置関係や力量関係によって、右または左の回転となります。

 直線モーメントは、作用点と支点間の距離を縮める働きを示し、回転モーメントは、この2点が上下または左右逆方向へ動く働きを示します。

 バランス感覚機能がこのモーメントに関わりを持ち、このバランス感覚が直線モーメントを求める傾向を持っていて、なるべく作用点と支点の力のベクトルを直線上に一致させようという働きを持っています。

 馬上でライダーがレインを引くとき、我々ライダーは自然に直線モーメントを作ろうとします。何故なら、バランスをとろうとするからです。従って、レインを引く角度と鐙やシートで支える角度を一致させて、直線モーメントを作ってしまうのです。
 このことによって、作用点と支点間の距離を縮めようという働きが作用して、馬の頭頸部が曲がる範囲で2点間の距離が縮まります。しかし、頭頸部が曲がる範囲を超えて2点間の距離を縮めることはできませんので、馬の後駆に影響を与えることができません。

 以上のことが理由で、馬に乗るのに手だけでは駄目で推進することが大切だといわれる謂われなのです。



 しかし、回転モーメントを作ることで、これらの問題を払拭することができます。つまりレインを引くことで、馬の後肢を踏み込ませることや収縮させることができるのです。つまり、馬体が曲がることがなくても、前駆がビルドアップし後駆がプッシュダウンすれば、水平距離が短くなって収縮が起きるということです。

 作用点と支点の力のベクトルをパラレルにすること、つまりレインを上方向へピックアップし、シートは下方向へ向かうように支えるようにすることで、馬の頭頸部は上方向へ、後駆は下方向へ力が加わり、馬を左側面から俯瞰したとき左回転モーメントが形成されます。
 このことによって、レインを上へ上げればあげるほど同時に後駆を下へ押し下げるので、後駆が結果的に前へ押し出されることになります。

 多くの初心者が、なかなか後駆を前に押し出すことができないという致命的問題を持っています。このときインストラクターや上級者から脚での推進が足りないという旨の指摘がありますが、実際上級者やインストラクターを見てみると、初心者ほど脚が激しく動いているように見えないのです。しかしながら、指導者などのアドバイスは、脚での推進を促すのです。


 上級は、レインのピックアップと同時に脚やシートでプッシュしているのです。しかし微妙にレインのピックアップと脚やシートのプッシュが直線にならずにパラレルになって回転モーメントを作っているのです。
 同じように初心者もレインをピックアップするときシートや脚でプッシュしているのですが、無意識にアンバランスを嫌って作用点と支点が一直線になったり、レインを行く手が低くなって左回転モーメントになったりして、後駆に影響させることができないか、却って後駆を後ろに追いだしてしまっているのではないかと考えることができます。



 誰だって引くときは何処かで押すように支えているし、押すときは何処かで引いているように、作用点と支点は一体的に働くのに、何故多くの人が馬上で、支点での影響を作れないのかという疑問は、バランス感覚の機能によって、作用点と支点の力のベクトルを同一線上にしようとしてしまうことによって、直線モーメントを作ってしまうことになるメカニズムがあるのではないだろうか。

 従って、意識的に回転モーメントを作ろうとしなければできないのが回転モーメントなので、レインをピックアップする角度とシーティングのライダーの上体の角度をパラレルになるようにしなくてはなりません。

 回転モーメントを作ることで、収縮やバランスバックするためにこれまで100の力を使っていたとしたら、作用点に50、支点に50の力ですむ勘定になります。

 考え違いをしないで頂きたいことは、馬が動くこととこのこととは直接的に関係ないということです。馬が動くことは、グランドと馬との間で作用反作用の力が働かなくてはなりません。馬体上に起きている作用点と支点との力は、その中で回転や直線のモーメントは作られますが、馬が動くことには直接的に関与しません。

 しかし、馬のフレームとしての体勢やバランスの位置をコントロールすることはできます。つまり、収縮やバランスコントロール(バランスバックやフォーワード)は、回転モーメントによって容易に作ることができます。従って馬の動きに直接に影響させることはできませんが、体勢やバランスコントロールすることによって、馬のムーヴメントをコントロールすることができます。

 ムーヴメントとはメカニカルとテクニカルの二つのムーヴメントのことで、馬がどのようなムーヴメントで動くはパフォーマンスの内容に深く関与するところです。また収縮などのフレームワークやバランスコントロールは、より軽快な動きを促したり、より推進力を促進したり減退させたりすることに繋がります。

 ライダーは、元々馬の動きに直接関与することはできませんが、フレームやバランスのコントロールをすることによって、間接的に馬の動きに関与することによって馬術をなり立たせているのです。
 そして、作用点と支点とで作る直線と回転のモーメントを意図的に作り出すことによって、馬術を成立させているといえるのです。

 レインを引けば後駆を引きつけることができるのが回転モーメントなのです。

2018年1月1日
著者 土岐田 勘次郎

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