VOL.95「Language　言語」

　2018年3月号

　今月のテーマは、言語である。

　言語の概念とは、ものごとを他と区別して特定することであり、心情や感情や考えなどの精神状態や物質や場所や時間や状況などを特定するものである。そして、その特定を他と共有することによって、コミュニケーションが成立するのである。

　メンタルも物質も状況も時間も特定するとは、空間を特定することであり、時間は、時間という座標軸である空間を特定しようというものなのである。



　くどくどと理屈っぽいが、要は言語といえば会話のツールと思いがちだが、その役割としての会話という概念のほんの一部であって、ものごとを特定することの方がその役割の大部分なのである。

　数学者は、世の中のあらゆることに潜む法則を見つけ出すことが務めで、数学とはその法則を現す言語だというのである。従って、あらゆる学問は、その分野における真理や応用を現すための言語だといえるのである。

　乗馬は、ライダーと馬とのコンビネーションによって行うパフォーマンスなので、乗馬のためにはライダーと馬とが共有する言語が必要であり、従ってその言語とは一体どのようなものなのかという疑問を解明して、その言語を用いてパフォーマンスすることが馬術だといえるのである。

　言語とは、空間を特定するためのものであることは既に述べたが、ライダーと馬とが言語があろうがなかろうが共有しているものは空間なのであり、その共有している空間を特定することで言語を形成するができる。

　空間を特定するためには、相対的に場所を特定することがスタートで基本原則となる。例えば、前肢に対して後肢が何処に位置するか、ポール（頭頂）に対してショルダー(肩)が何処に位置するかということで、相対的にその位置を特定することが、空間を特定することになるのである。

　乗馬における言語は、馬のパーツであるポールやショルダー、前肢や後肢、リブケージ(胸郭)、フランク(脾腹)、ハインドクォーター(後駆)などの相互間の位置関係である。

　良く耳にすることは、ヒップイン（またはアウト）とかステップイン(またはアウト)ということであるが、厳密にいえばこれでは言語として成立せず、成立させるにはヒップインであれば、ショルダーに対してヒップをインサイドへ移行するとなり、ステップインであれば、外方前肢に対して外方後肢をインサイドへ移行するとなることで言語が成立するのである。

　言語として成立することは、ライダー自身が馬に対する要求をヒップインやステップインと認識しているのと、相対的に位置づけ言語を成立させて馬に対しての要求を認識するのとでは、その要求における馬の反応に対する正否の判断が正確となり、ライダーの判断が正確になれば必然的に馬の反応が正確になるのである。
　当然馬の反応が正確になれば、パフォーマンスは飛躍するのである。

　ライダーの中では、ヒップインやステップインは主語が省略されているだけで言語として成立していても、馬に対して要求するとき、ヒップインやステップインをしようするだけで、相対的対象を認識していなければ言語として成立していないので、運動方向は要求にあっていてもステップの方向が間違っていたり、ステップの方向は要求にあっていても運動方向が間違っていたりして、ライダーと馬とが違う認識を持っていることに気づかず学習してしまうことになるのである。

　また、馬の反応を感知するのはライダーの感覚機能であり、馬の小さい反応が起きたときにこれを察知し正否の判断をして、馬にこれをフィードバックすれば、馬が理解しやすいので、混乱や反抗をさせなくて済むのである。しかし、ライダーが馬の反応を察知できなければ、つまり感覚が鈍ければ、馬の反応を見過ごすことになり、馬の混乱や反抗を招く元となるのである。

　ライダーの感覚を開発するには、我我人間が言語を持つことによって、色々なことを特定できて、感情や精神状態までも特定することができるようになったことを考えても、乗馬における言語をライダーが持つことは、レインハンドやシートや脚から受ける触感を特定することに繋がり、触感が特定できるということは、則ち感覚機能が開発されることなのである。

　現在の乗馬社会では、ライダーの感覚機能という視点で捉えれば、感覚の発達している人もいればいない人もいる状態で、それが何故なのか、どうしたら感覚が養成されたり開発されたりするのかのメカニズムが理解されていないのである。

　それは、乗馬における言語の重要性が議論されていなかったせいなのである。



　言語は、単純な作用で形成されるのもので、発達することによって複雑で高度な機能性を持つので、日常使っている言語を科学者は兎も角一般人は、単純に形成されるものとは理解されていない。

　多種多様な専門性を以て生活している我我人間社会において、その専門性は、その専門的言語をもって営まれていると理解すれば、専門外の人にも理解できるのである。

　それは、空間の特定の仕方で専門性が分岐するだけのことなのであり、乗馬の場合は、馬体のパーツ間の相対的位置関係で特定する言語を用いていて、大工さんは、材木を切ったり削ったりして空間を特定している言語を用いており、料理人は、食材を切ったり熱したりしてできる空間を特定している言語を用いているのである。

　従って我我乗馬を営むものは、乗馬における言語を上手に使えるようになることが上達への道だといえるのである。