Horseman's Column title

   VOL.16 「Harmony & Combination of Drive & Repression」
        ドライブとリプレッションのコンビネーションとハーモニー
        (推進と抑制のコンビネーションと調和)

推進と抑制のコンビネーションと調和


ライダーは、馬をコントロールするために2つのファクターを駆使している。
その2つとは,「ドライブ」すること(推進)と「リプレッション」すること(抑制)の片方か両方である。
 ライダーは、馬をコントロールするためにたった2つのことしかやっていないし、2つのことしか、
やることができない。
突き詰めた言い方をすれば、こうなる。

しかし「そんな単純であるはずがない。」と思う。
そんな単純ならもっと簡単にできて良いのに、そうは行かない。
「何故なの?」とこんな疑問が湧いてくる。


 ライダーが難しいと感じるのは、ドライブとリプレッションのコンビネーションとかハーモニーで、
それはライダーの力の加減をコントロールする神経が、毛髪の先端にまで行き渡るようなフィールを必要と
されるからであって、複雑なテクニックが要求されるからではない。


 世の中にある多くのテクニカルなものや高度な職人技といわれているものは、決して複雑なテクニックに
よって具現化されているわけではない。
むしろ研ぎ澄まされた繊細な感覚による微細な手加減が、何もかもを可能にしている。


例えば、高速で多量な情報を一瞬で処理する超高性能なコンピューターも、小さな基盤にどれだけの回路を
集積できるかに係っている。
小さな米粒に経文を毛筆で書くような技術が高性能なコンピューターを世に出している。

 またオリンピックに出場するようなアスリートが使う用具、例えば野球のバットやハンマー投げのハンマー
などは、日本人の繊細な感覚を持つ職人の手によって作られている。

 極めて精密な定規を作り出すためには、その作られた定規が極めて精密に平らであるかどうかを測定する
定規が必要で、最終的にその定規のための定規の面が平らはどうかを判定するのは人間の手でなんだそうだ。

熟練された人間の指先に勝るセンサーを未だ人間は作り出せていないということであり、機械のセンサーが
測定しようが人間の手が感覚的に感じるとしても、微細な違いを感じ取れるフィールが成せる技だと
いうことでしょう。
 



様々な馬の動き、スピン・ロールバック・バックアップ・サークル・チェンジリード・ウォーク・トロット・
ロープ・ギャロップ・ハーフパス・サイドステップ・トゥートラック これらの運動をライダーの指示で
馬にさせようとすれば、やはりドライブするかリプレッションするか、またはその両方をコンビネーション
するかして、馬をコントロールし馬の反応として得る以外にありません。

 つまりライダーが馬をコントロールするために獲得しなければならないスキルは、
如何に馬をドライブするかということと、そのドライブされた馬の前進気勢をどのようにアウトプットするか
をコントロールするために、ビットに繋がるレインをリプレッションとしてどのように使うかの2つだけ
なのです。


 脚でドライブして馬に前進気勢を与え、その前進気勢をビットによるリプレッション(抑制)をして、
その前進気勢のベクトルや大きさを変えて様々な運動に転化する(アウトプット)。
このことが馬をコントロールすることそのものだということができます。


このたった2つの往復運動の技術がライダーのスキルで、これ以外は些少なスキルだといっても
差し支えないし、例えばバランスとか姿勢とかタイミングとかリズムなどの技量は、全てこの2つのスキル
「ドライブ」と「リプレッション」を発揮するためにあるといえる。




 Rein(手綱)とは、元々は拘束とか抑制とかいう意味を持っているくらいで、
主に馬の前進気勢を抑制する働きを持つ。

 ウエスタンの世界でルーズレインといっても、リプレッションを行わないということではない。
ドライブとリプレッションのコンビネーションによって、馬をコントロールしようとするのは、
ブリティッシュ・ウエスタンに関わらず全ての乗馬において共通なのです。

本当は、乗馬に限らず地球上の物体の動きをコントロールしようとすれば、
全てドライブとリプレッションとのコンビネーションによって、行わなければならいことは共通なのです。

つまりどんな複雑な物体の運動でも、ドライブとリプレッションのコンビネーションによって
制御されているものなのです。




 本来のテーマの話にしましょう。
 ライダーは、如何に馬をドライブするかを学ばなければなりません。
馬をドライブするには、主に脚で行います。この時特に初心者は、中々ドライすることができません。
そこで最初に考え出されるその原因は、「脚力だ。」ということになります。

脚力を付けるために、筋肉トレーニングをする人は流石にいませんが、概ね筋力の問題だと
結論づける人が多いことも事実でしょう。

しかしライダーが脚で馬を上手くドライブするには、馬のメンタルに強い影響力を持つことが重要なのです。
それを証拠に上級になればなるほど、何をしているか分からないほどの些少なプレッシャーで、
馬をドライブしてコントロールできる。

 ライダーが上手く馬をドライブできるようになるということは、自信を持って馬に乗ることが
できるようになることなのです。

ライダーが馬に対して自信が持てる要因は、様々な要因が考えられますが、
只一つ確実に、ライダーの自信を削ぐ要因があります。
それはライダーのバランスです。

ライダーがバランスを不自由なくとれて騎乗できないことは、ライダーの不安を招き自信を持つことが
できない。
ライダーの自信は、意識的に持つことができません。

瞬間 瞬間において、しなければならないことに、対処する度にバランスを崩すことなくこなせるという
確信が、ライダーが自然に自信を持てるようになる第1歩なのです。

ライダーが馬に対して、イニシアティブをとるには何よりもライダー自身のバランスであり、
そのバランスがとれることによって、ライダーは不安なく自信を持って馬に対面することができて、
馬はライダーの気迫に気圧されて、ライダーのドライブに素直に反応するようになる。



さて、私が脚で馬をドライブする時、優先することは先ず外方後肢が推進されることであり、
また脚を入れる方の後肢が推進されるようにということです。
そしてその外方後肢が何処へ向かって推進されるかも意識する。通常のサークル運動においては、
内方前肢へと向かうことを意識する。

そして馬を推進する時、単純に推進したエナジーをそのままの大きさで馬がドライブされるということ
ではないと考えている。つまり馬をコレクションする。
馬をコレクションするということが運動力学上どのように説明できるのかは分かりませんが、
感覚的にではあるが、ドライブしたエナジーの力量をそのまま馬の運動として、アウトプットしてしまう
ことなく、馬の体の中にためて、ライダーが必要だと思う力量分だけを意図する方向へとアウトプット
するという感覚なのです。


実際には、脚でドライブしレインハンドでその力をリプレッションして、一定の力量分だけで一定の運動を
馬に継続させて、例え脚を強めたとしても馬の運動が速くなることがないように、リプレッションの強さを
絶えず調節する。

脚とレインとのコンビネーションは、脚で推進した力量をレインハンドでリプレッションする。
そしてそれは、推進エナジーを単純にリプレッションして相殺してしまうと云うことではない。
相殺してしまうとは、馬の前進気勢が失われてしまうことを意味する。

推進エナジーをレインハンドで馬がライダーの意図するスピード以上に、速くならない程度に
リプレッションする。
しかし馬は、ドライブされた前進気勢をリプレッションするレインハンドによって損なうことなく、
そのエナジーが馬の体内でローリングするというような感覚なのです。

脚でドライブした推進エナジーをそのまま単純に馬の運動に転化させてしまうことなく、
馬の体内でローリンするようにためることができれば、馬の踏み込みが深くなってコレクションする
ということになる。
ドライブした力量の一部を運動に転化させ、残りの多くを馬の体内でローリングが起きるように
リプレッションすることによって、馬がコレクションして、いつでもどの方向にでも馬の体内にたまっている
推進エナジーをアウトプットできるというメカニズムなのです。

この状態を作ることによって、馬自身が最小限のエナジーで運動できるようになり、
ライダーが馬をコントロールしやすくなる。

これらのドライブとリプレッションのコンビネーションによって、作られるハーモニーが
あらゆる馬術を生み出しているということができるのです。

                   2008年4月28日
                   著者 土岐田 勘次郎



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