Horseman's Column title

   VOL.17 「Collection (コレクション・収縮)」 


 コレクション(収縮)は、馬術用語として多くの馬術家に用いられている。そして、一般人に至るまで、今日では広く使われている。
 また、ドレッサージュやブリティッシュとしての乗馬用語で、ウエスタン馬術には無縁のように思われているかも知れない。ウエスタン乗馬をしている人でさえ無縁だと思っている人が多い。
 コレクションを収縮と日本語にしたのは、日本陸軍が馬術用語を定義したことに始まるそうだ。
ある学者は、コレクションを収縮と訳したことが、日本の乗馬界にとっての多くの誤解を生んでいるという。
馬の体が収縮するものだとか、脊椎が湾曲して内方姿勢をしている挿絵を見ることがある。馬の背骨が湾曲するという誤解を作ってしまった。
この学者は、収縮ではなくて収足と訳すのが妥当だろうと仰っている。


 因みにコレクションビットというのがあるが、この場合はCorrection Bitというスペルで、矯正するという意味を持っている。ここで言うCollectionは、収集するという意味を持っている。同じではないので注意されたい。


 成馬の馬体は、上下左右に殆ど湾曲しない。
 斜体速歩や斜体駈歩(斜体に対して対極的にあるのは、側対の歩様があります。)の歩様は、運動エナジーのベクトルが馬体の対角線上を通る。何故なら馬の脊椎が湾曲しないからに起因している。
 物体が効率良く推進エナジーを運動に転化するには、物体の重心か、できるだけ重心の近くを推進エナジーが作用する必要性がある。効率良くとは、最小限の力で運動するとか、一定の力で最大出力をするとかいう意味です。
 また「重心とは、質量の中間点」をいう。


 馬の重心は、第4肋骨付近にあるといわれている。
 その重心を運動エナジーが通過することが、運動効率が良い。
例えば競馬において、第4コーナーを回り追い込みに入って最高速になったとき、馬の左右の肢は、限りなく近くに着地する。蹄跡を見ると思ったより幅が細いのでびっくりするくらいだ。できるだけ重心の真下で肢を動かすことで、最大の運動を発揮しようとするからなのです。
 重心の限りなく近くを運動エナジーが通過するためには、2つの方法があって、1つは重心を運動エナジーのベクトル上へ移動するか、もう一つは運動エナジーのベクトルが、重心を通過するようにするかの2つです。
 脊椎が柔軟な肉食獣は、運動エナジー上に重心を移動して、馬は脊椎が湾曲するような柔軟性を失うように進化したので、運動エナジーを工夫して重心上を通過するようにして、それぞれ運動の効率化を計っている。つまり脊椎の柔軟度によって、運動の効率化の方法が違うということなのです。
先ほどから述べているように馬は、脊椎の柔軟性を失うように進化してきた。柔軟性を失うことによって、立っているときの筋肉運動を最小限にするという工夫をしている。犬や猫のように脊椎が柔軟な動物は、筋肉力で立っている。
そして筋肉運動の特徴は、疲れやすくコンディションに左右されやすい。それで犬や猫は、必要でないとき寝そべっていることが多いのです。
 馬は、寝そべって休んでいると肉食獣に食べられてしまう。
そこで筋肉運動を必要としないように脊椎を硬直化して、立っているとき筋肉運動を必要としないように進化した。しかし走るとき運動エナジー上に、重心を移動することができなくなってしまった。そこで馬の体の対角線上を運動エナジーが通過するようにし、重心を通過するようにして(斜体速歩・斜体駈歩)、運動効率を上げるようになったのです。


 因みに側対速歩や側対駈歩などの側対歩は、運動効率が悪い。自然界では、キリンやラクダがこの側対歩で、馬に比べて下等動物だといわれる根拠となっていることだ。


 馬の肢の位置が重心から遠かったり、推進のベクトルが重心から離れたりすればするほど、無駄な力を使うということになり、なるべく重心の近くで馬の肢を動かすことや推進のベクトルが重心を通過することで無駄を省くことになる。このことが収縮(収足)でありコレクションなのです。
 つまりコレクションとは、馬の運動効率を高くするため余分で無駄な力を使わなくて済むように、馬体の重心の出来る限り近くに4本の肢を集めること、特に駆動の役割を発揮する後肢を重心の近くへ踏み込むことなのです。


 コレクションの目的は、運動効率を高めることで、平たい言い方をすれば無駄な力を使わないようにすることなのです。つまりドレッサージュやブリティッシュだけの専売特許ではなくて、ウエスタンや全ての乗馬において、馬の運動効率上密接な関わりのあることだということができることなのです。


 コレクションすることによって、馬の運動は無駄がなくなり軽快になります。軽快になるということは、運動の移行もまた容易になるということです。例えば、駈歩の発進や停止。そしてリードチェンジや方向の転換。あらゆる運動の基本であり究極ともいえることです。


 馬のトレーニングは、究極のところ、フィジカル的に如何にコレクションするかということと、メンタル的に、如何なるモーメントにおいても、ライダーに対するコンセントレーション(集中)を解くことがないようにすることに尽きる。


 馬をコレクションさせるには、常歩・速歩・駈歩の3種の歩様において、外方後肢を内方前肢に向かって極力深くステップさせるように、脚で推進してその前進気勢をハミで抑制して、推進した分のエナジーをそのまま馬の運動スピードに転化させることなく、ハミで抑制して、後肢のステップのストライド(歩幅)に転化するようにする。もしこの前進気勢をハミで抑制しなければ、馬はそのままステップの回数を増やして、スピードを上げてしまう。つまりコレクションは起きない。
 またウエスタンのライダーに見られがちな、馬の頭を下げることを考えるあまり、推進することを怠りハミばかりを使ってしまう。これは本末転倒で、後肢の推進をする前にヘッドセットすれば、馬の前進気勢は削がれてしまいコレクションは起きない。
 内方姿勢も同じことで、馬の首や頭を内方に向かせることだと勘違いして、ハミで内方へ引いて内方姿勢を作ろうとする。このことによって後肢は外方へより遠心力のジーを受けて、ステップアウトしてしまう。
 内方姿勢とは、外方後肢を内方前肢へ向かってステップインして、馬体の中心に位置する馬の首と頭はそのままにして、後駆がインすることで作らなければならない姿勢で、このことによって外方後肢が遠心力と充分に闘うように駆動できて、結果的に肩の倒れを防ぐことができる。


 必ず馬の前進気勢を起こした上で後に、ハミを使うというのが鉄則だといわれる所以は、上記の理由があるからで、馬を推進してその推進によって起きた前進気勢をハミで抑制することによって、コレクションを作るということなのです。
 このことで馬の運動が軽快になって、あらゆるトランジション(Transition 運動の移行)が容易になります。
 ハミでばかりヘッドセットを行うウエスタンライダーの馬は、一見コレクションしている姿に似ているので勘違いしてしまいがちですが、馬のステップが伴っていないのでコレクションしてなくて、一向に軽快な運動になっていない。停止からの発進・運動からの停止・ガイド(誘導)・方向の転換・リードチェンジ(踏歩変換)等のトランジション(移行)が容易にならない。


 乗馬の基本が如何に馬を推進するかといわれる所以は、まさに何事においても馬のステップあってのことだということを物語っている貴重な言葉なのです。

 
                    2008年6月6日
                 著者 土岐田 勘次郎


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