ディパーチャーとストップは、ライディング中必ず同じ回数ついてくるもので、マウント(上馬)とディスマウント(下馬)と同様で、乗馬をすればこの二つを避けて通りすぎることはあり得ない。
ことわざにも「終わり良ければ全て、良し」とあるし、ゴルフでのスコアメーキングでも「最初の3ホールと最後の3ホールをまとめれば、結果良し」などといったりして、一般的に物事の始まりと終わりは、特に重要だといわれている。
さて、乗馬においては、どうだろうか。
あまりに日常過ぎることなので、特にディパーチャーとストップを意識して、「どのようなものが理想型なのか」、なんて考えたりしない。
競技でもやっていれば別かも知れないが、日常の乗馬の中で、歩き始めや停止についてあれこれ考えたりしないし、「考えることなんてあるの?」なんて思うかも知れない。
ディパーチャーは全ての始まりであり、ストップはそれまでの結果といえることなので、このことを考えることは、自分自身の乗馬全体を考えることになりとても大切なことだということができる。
ディパーチャーとは、運動の移行のことをいう。Transition(トランジション 移行)、つまり「停止から常歩・速歩・駈歩」等の歩様の移行やリードの変換など広い意味での運動の移行は、全てディパーチャーだと考えることができる。
馬が運動を移行するときは、運動の継続中と比べて惰性がないだけに、運動エナジーを多く必要とする。
ディパーチャーの時に馬は、必ず後肢から運動を始める。(常歩と速歩には、リードがなく左右イーブンなので、左右どちらかの後肢からステップが始まる。しかし駈歩は、リードがあるので、必ずリードに対して反対側の後肢、つまり外方後肢からステップが始まる。)
常歩は、4拍子のリズムで、外方後肢・外方前肢・内方後肢・内方前肢の順序でステップする。または、内方後肢・内方前肢・外方後肢・外方前肢の順序でステップする。
速歩は、2拍子のリズムで、外方後肢と内方前肢・内方後肢と外方前肢という順序でステップする。または、内方後肢と外方前肢・外方後肢と内方前肢という順序でステップする。
駈歩は、3拍子のリズムで、外方後肢・外方前肢と内方後肢・内方前肢という順序でステップする。
ライダーと馬との約束事として、私は馬の3種の歩様に置いて、全て外方後肢からスタートするように心がけている。つまりディパーチャーの全ては外方後肢から始まると考えている。
従ってライダーは、ディパーチャーの時点で、右サークルであれば左後肢、左サークルであれば右後肢を最初にステップさせることを意識しなければならないということになる。
ここを間違えると、常歩と速歩に関しては、左右対称のステップ順なので大した問題になることはない。しかし駈歩となると最初のステップによってリードが決まるので、正しい方の後肢をチョイスしなければミスリードになってしまう。従って、できれば常歩や速歩でもライダーが指示をするときに、外方後肢をステップの第1歩として意識することを日常的にすることによって、馬の方もミスリードをしてしまう確率がグンと少なくなるばかりでなく、馬がステップの一つ一つにまでライダーの要求があるということを学び、細かなことまでライダーの要求に、気を配るという結果を作り出すことができる。
乗馬は、「馬の背中に乗って、馬をコントロールすること。」だということができ、馬をコントロールするということは、馬のステップをコントロールするということであり、その第1歩が外方後肢なのです。
ディパーチャーにおいてライダーは、進行方向を選択すると同時に、その進行方向に対する外方の後肢をステップの第1歩として、運動することを意識しなければならない。
そしてその時ステップの第1歩と同時に、どの歩様(常歩・速歩・駈歩)を求めるのかを意識しなければならない。
ディパーチャーにおける馬のメンタルは、特に常歩から速歩への変換の時に駈歩になってしまったり、駈歩の第1歩がゆったりしてなくて焦った感じを受けたりするときは、大体ライダーの指示がディパーチャーにおいて、強すぎた結果で、馬のリラックスを阻害してしまっている証拠だといえる。
ライダーの指示に対して正確に馬が反応するためには、馬が冷静な精神状態でしかもライダーにコンセントレーションしてなくてはなりません。
そしてディパーチャーは、運動の継続中に比べて運動エナジーを大きく必要とする分、馬をナーバスにしてしまうリスクが大きい。只この時のナーバスさやレジスタンスは、直ぐに大きなものになって、ライダーに危険を及ぼすようになることは少ないので、つい気にかけないで、後々大きな反抗や焦りとなってから、どうしようと悩むライダーが多い。
ディパーチャーは、フィジカル的にはどの歩様で外方後肢を第1歩としてステップするかと同時に、馬のメンタルが何時も穏やかさをキープして、ライダーの要求に応えるかが重要だと認識しなければなりません。
もし馬が焦って運動の移行をしたときは、必ずやり直して穏やかな運動の移行やディパーチャーをするように心がける必要があり、このことを必ず励行することによって、馬は穏やかにライダーの指示に対して、コンセントレーションし反応するようになるものです。
チェンジリードといえば、駈歩の連続動作中にリードを変えることですが、私の場合は、一つのディパーチャーだと考えるようにしています。
ディパーチャーの時、リードをピックアップする場合は、馬のフレームを整えることによって(内方姿勢)、ライダーの与える推進エナジーを外方後肢から内方前肢へと向かうようにして、外方脚で推進して行います。
上記のことをリードチェンジの時も同じように、馬のフレームを移行する方の内方姿勢を作り、移行するリードに対して外方脚で推進する。
つまりディパーチャーであっても駈歩の最中であっても、馬がリードをピックアップしやすくするようの体勢を作り、そして推進するということは何も変わりがない。
これらのことを踏まえると、運動の移行を全てディパーチャーと考えて、普段からライダーと馬との間で約束事を作っておくことによって、旨く移行ができなかった場合や馬が慌てて加速してスムースでなかった場合や様々な障害が起きたとき、どのように調整するかという手段を考えるときに、チェンジリードやストップや方向の転換などを単純な一つの運動と考えないで、幾つかに分解してその中の問題な要素を抽出して、的確に修正することを容易にするのです。
ディパーチャーは、全ての運動の移行のことということができるのです。
停止から常歩・速歩・駈歩。
常歩から速歩・駈歩・停止。
速歩から駈歩・常歩・停止。
駈歩から速歩・常歩・停止・チェンジリード。
右から左・左から右への方向転換。
その他。
運動の移行は馬にとってもライダーにとってもハードなことで、どちらにもそれなりのスキルが要求されます。しかしそれらの総合運動をそのままにしないで、一つのディパーチャーと考えることによって、それらの総合運動を構成する要素に分解して理解することを可能にし、馬をトレーニングする場合ならどのような基礎トレーニングを施すとによって、総合運動としてのパフォーマンスを可能にするのかをプログラムできるし、ライダーにとっても、高度なスキルを会得するためにどのような基礎が備わっていなければならないかを容易に理解することができる。
そして一つ一つを分解して理解するようになることによって、ライダー自身の上達をタイムリーに細かく実感することができて、乗馬におけるモチベーションを維持することに大変役に立つに違いありません。
2008年7月25日
著者 土岐田 勘次郎
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