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   VOL.20 「チェンジリード」 Change Lead

 今月は、チェンジリードがテーマです。

 チェンジリードの本題に入る前に、リードとは何かというのをお話ししないわけにはいきません。

 だいぶ以前ですが、外乗のクラブで講習する機会が何回かあって、必ず質問されることに、「外乗するのに、正しいリードは必要ですか。」というのがありました。なぜ馬の駈歩にリードがあるか、ということをその度に説明したのを覚えています。


 そもそも馬は、4本肢なのに3拍子の駈歩をします、それは同時に動いている2本の肢があるから3拍子になる訳なのです。
 斜対駈歩とか斜対速歩とかという言葉を聞いたことがありますでしょうか。これに対して側対速歩とか側対駈歩というのもあります。
 特別に調教された馬を除いて、馬は斜対歩法です。
 因みに斜対歩法に対して、側対歩法というのがあって、キリン・ラクダが代表的です。

 馬は進化の過程で、この斜対歩法を獲得したといわれています。
まず体に対して垂直に肢が付いている条件を備えました。体に垂直に肢が付いているとは、ワニを想像していただければ分かると思うのですが、ワニは体の横に肢が付いています。体の横に肢の付いている動物は、速歩まてでしかできなくて駈歩はできません。
 駈歩をするということは、速歩よりも速く走るためにする運動ですから、より速く走るためには、単に肢を速く動かすだけでなく運動効率を良くするために、より重心の近くで駆動するようになります。そのために体に対して垂直に肢が付いていることが必要要件なのです。
 その運動効率を良くする即ち無駄な力を使わなくすむように、体に対して垂直に肢が位置するように進化して、3拍子の駈歩を獲得したといわれています。

 物体が動かないように安定させるためには、できるだけその物体の重心から遠い位置で支えることが良い、これに対して物体を移動させるためには、重心のできるだけ近くを作用することで最小限の力ですむことになる。また、運動効率が良いということは、一定の力で最大の出力を得ることができるということです。

 更にまた、馬は、進化の過程で脊椎の柔軟性を失いました。そのことによって立ったまま休むことができるようになって、寝ている状態から起きあがる時間を省略でき、肉食獣からの攻撃に備えるようになったのです。しかしその一方で、第4肋骨付近にある馬の重心を駆動ベクトル上に、柔軟に移動することができません。
 肉食獣は、脊椎が柔軟なので走るときの駆動ベクトル上に、自らの重心を移動することによって、効率よく走ることができます。しかし馬は脊椎が硬直化して、自在に自らの重心を移動することができません。


 また、脊椎が柔軟な肉食獣は、単に立っているときも筋肉力で立っています。脊椎の柔軟性を失った馬は、立っているとき筋肉力を使わなくても立っていることができます。このことの違いは、我々人で試してみるとよく分かります。真っ直ぐに立っているとき膝を少し曲げてみるのと曲げないでみる。この違いを比べてみてください。


何が違うかといえば、疲れ方が格段に違うということがお分かりになるはずです。
 犬や猫は、普段何もしないとき寝ころんでいるのが多いのは、ただ立っているだけでも筋肉運動をしているので疲れるからなのです。また筋肉運動はコンディションに左右されやすいという特徴も持っています。



 さて馬は、筋肉力を使わなくても立っていられるように進化したのは良いが、自らの重心を自在に操って、効率よく走ることができなくなってしまいました。そこで駆動ベクトルを工夫し、重心上を通過するようにして、効率良くしたのが斜対歩法なのです。つまり駆動ベクトルが馬体の対角線を示すようになったというわけです。

 馬の駈歩は、外方後肢→内方後肢と外方前肢→内方前肢という順序でステップし、駆動ベクトルは外方後肢から内方前肢へと向かいます。つまり馬体の対角線上を駆動ベクトルが通過し、その線上に馬の重心が存在するということです。このように駆動ベクトルが重心上を通るように、斜対歩法によって、ステップの方向性を作っているのです。

 この駆動ベクトルが重心上を通ることによって、運動効率を良くし最小限のエナジーの消耗で、推進力を得るというのが馬のリードの役割だということができます。


 従って、リードチェンジとは、駆動ベクトルをもう一方の対角線上へと切り替えることだということができます。
 皆さんは、二蹄跡運動(トゥートラック)というのをご存じだと思います。
このことを簡単にご説明すれば、馬が静止して立っている肢の位置を想像してみてください。そして外方後肢と内方前肢が一本の直線上に位置し、その線の外側に外方前肢、内側に内方後肢が位置するのがこの二蹄跡です。

 この二蹄跡の形で運動すれば、馬は外方後肢から内方前肢へと向かう駆動ベクトルを作り出せることになります。


 余談になりますが世間でよく言われる「ハミ受け」は、この脚による推進のベクトルが外方後肢から内方前肢へと向かい、そしてハミに向かうことなのです。推進ベクトルが絶えずハミに向かっているから、そのハミを作用させることによって、馬のフレームや進行方向をコントロールできるメカニズムが成立するのです。


 究極のところ、二蹄跡の左右切り替えをリードチェンジだとご理解いただけたと思います。

 またコレクション(収縮)をご存じだと思いますが、何のためにコレクションを求めるのかというのもまた密接に関連することなので、少しだけご説明したいと思います。

バレーボールのなどのボールを思い浮かべてみてください。厳密に言うとボールという球体は、床である平面と1点のみで接しています。つまりこの1点で立っていると考えることができます。

球体は、1点でバランスをとっていて、このバランスをほんの少しだけ崩すことによって、360度どの方向へもイージーに転がって、移動することができるのです。
 つまり馬のコレクションとは、馬体の重心近くに4本の肢が集まり、球体が1点でバランスをとっているのとできる限り近い状態を作り、ほんの少しだけの力でこのバランスを崩し、360度どこへでも移動したり方向転換したりを可能にする意味を持っているのです。

 このコレクションの持つ意味合いを、ほんの少しだけの力で重心移動や方向転換が容易になるということだと理解することがとても重要です。



 それでは具体的にどのように、この二蹄跡の馬の体勢を左右切り替えるのか、つまりリードチェンジの方法についてお話をしたいと思います。

 まずリードチェンジにおける注意事項やリスクをリストアップしてみることにしましょう。

1.リードチェンジの理想型は、後肢が替わって、続いて前肢の順で替わること。


2.リードチェンジは、ワンストライド
(1完歩)の中で前後肢共に替わること。

3.リードチェンジの際に、ジョグを入れないこと。

4.ライダーのキューイング以外の条件によって、リードチェンジしないこと。例えば特定した場所とか、馬が勝手にとか、方向の転換などといった条件でリードチェンジしないこと。

5.リードチェンジの前後に、馬のカデンス(歩調)が変化しないこと。

6. その他。


 私が、新馬にリードチェンジをトレーニングしたりショーホースのチューニングとしてリードチェンジをしたりするときに、良くカウンターキャンターをします。

 カウンターキャンターとは、逆リードで走ることです。つまり右サークルなら左リードで走るということです。

 例えば、左リードで左サークルを走って、サークルのセンターの1/4手前辺りで、外方脚を前肢寄りに使い外方姿勢を作ります。この時に内方脚は決して使いませんし、使う方の外方脚は、押しつけたままで離したり軽打したりしません。これは、左サークルの二蹄跡運動の体勢を外方から脚を押しつけることで、馬の肩を内方に入れて4肢が長方形を示すような体勢にするわけです。これをニュートラルな体勢だと考えています。


 このニュートラルなフレームを維持して右サークルを走る。つまりカウンターキャンターをして、そしていざリードチェンジを馬に促すとき、左外方脚をプッシュし左外方後肢を右内方前肢と同一直線上へと移行するようにすると同時に、右内方脚をリリースする。これで右内方姿勢の二蹄跡のフレームに移行して、リードチェンジが完成するという手順です。


 何故この方法を私が良く用いるかといいますと、この方法は、サークルのどの場所でもリードチェンジにトライすることができるので、馬が先読みをしたり、場所を特定したりするリスクを回避できます。そして馬のフレームが準備できるまで待ってから、リードチェンジをする余裕ができるという点です。



 リードチェンジの際の脚の使い方として、私は、カウンターキャンターの時の内方脚を軽打しないでくっつけたままプッシュするのは、リードチェンジの合図と体勢作りのための合図とを馬が間違えないようにするためにと考えてのことです。


 カウンターキャンターの時の内方脚を馬体にくっつけたままでなくて、推進脚のように軽打している人をよく見かけますが、私は、リードチェンジの合図を送る脚と馬が間違えやすいと思うので、馬が間違えるリスクを回避するために、馬体に付けたままでプッシュするような脚の使い方をするように努めています。


 また、なぜ一旦ニュートラルなフレームを作るかといえば、後肢のアクションをできるだけ小さくてすむようにと考えるからです。例えば左二蹄跡のフレームから右二蹄跡へといきなり変えるようにすれば、馬の後肢は左端から右端へと大きなアクションをしなければなりませんが、一旦ニュートラルなフレームに移行することによって、いざリードチェンジの時に、馬体の中央に位置している後肢を右端へと移行すればすむので、より小さなアクションとなり馬にとっては、やりやすいと考えるからです。


只ニュートラルなフレームにしているとき、馬が勝手にリードチェンジしないように右内方脚をプッシュし続けて、カウンターキャンターを維持するように、留意しなければなりません。
 そしてリードチェンジの脚は、この場合の左外方脚は、馬の後肢特に左外方後肢へ影響するようにすることと、駈歩のライジングのタイミングで入れるのが最も良いタイミングです。このタイミングは、通常の推進脚と同じなので普段それができていれば、特に意識する必要はないでしょう。


 このリードチェンジのための外方脚もまたタッチアンドプッシュするようにして、そのまま馬体にくっつけたまま、馬がリードチェンジの反応を見せてからリリースする。このように脚を使うことによって、万が一タイミングがずれてしまっても、そのままプッシュし続けて、馬のリードチェンジの反応を待ち、反応を見せた後にリリースすることができます。また、タッチアンドプッシュのように脚を使うことによって、その馬に必要充分なプレッシャーの強さをライダーが察知することができて、必要以上にプレッシャーを強くしてしまって、馬のフラストレーションを作ってしまうことも避けられるのです。



 リードチェンジの時にジョグが入ってしまったとき、第一に考えられる原因は推進力つまり前進気勢不足なので、カウンターキャンターしているときの内方脚のプッシュを強くするようにして、推進力を増すことに努めます。



 またリードチェンジの反応が遅いと感じたときは、一旦常歩に落として後肢をステップインして、この場合の右リードへのリードチェンジであれば、その場で右内方姿勢のまま左外方脚でプッシュして、外方後肢をよりステップインするようにして左回転をします。そして再びカウンターキャンターをして、リードチェンジにトライします。



 リードチェンジの前後にスピードアップしたりあわててしまったりして、馬のカデンス(歩調)が替わってしまうのは、充分な準備ができていないときに多くみられます。

 例えば、後肢の柔軟性などです。この時は、速歩で後肢の柔軟性をトレーニングするのがいいでしょう。馬によって異なるので一概にいえませんが、1〜2週間程度は後肢の柔軟性を求めるトレーニングを施して、充分な準備をして再びリードチェンジにトライするようにします。後肢の柔軟性がないまま、リードチェンジにトライし続ければ、ますます馬はあわてるようになって、後々までもリードチェンジで苦労することになってしまいます。


 
 私は、リードチェンジのトレーニングをする場合、馬の後肢のサイドステップの反応をより柔軟にすることをから始め、そして馬にとって、このことが簡単なパフォーマンスの領域まで熟練すること。そしてこの後肢の柔軟性を作りながら同時に、二蹄跡運動とコレクションを求めることを行います。

 私のトレーニングにおけるポリシーの一つに、馬を如何に柔軟にするかというのがありますが、それは馬がコレクションするのを容易にするためなのです。

 馬のコレクションは、馬の運動や移行をより少ない力でイージーにすることを可能にします。

 ここに掲げた「後肢の柔軟性」「二蹄跡運動」「コレクション」の3つの要素がリードチェンジのための必要用件だと考えています。
 リードチェンジは、フィジカル的には上記の3要素を求められる総合運動であり、メンタル的には理解と平常心が求められるパフォーマンスだということができます。特に競技のパターンでは、サークルの中央で左右のチェンジを続けて行わなければなりません。これらのことを考えると、如何に普段、方向の転換や行う場所とをリードチェンジに関連づけないようにしておくことが大切であるかが分かります。
 例えばサークルの中央でいつもリードチェンジをしていれば、馬はサークル中央や方向の転換と関連づけて覚えてしまい、競技などで3周しなければならないサークルの途中でリードを替えられてしまうという大きなリスクを生み出してしまうのです。



 リードチェンジを軽快にするような馬にするということは、同時に必要でないときに馬が勝手にしてしまったり、うっかりしたライダーのミスで反応してしまったり、というリスクを生むことにもつながっていることを、ライダーは意識しなくてはなりません。
 馬のトレーニングは、訓練するパフォーマンスを可能にすると同時に、起こりうるリスクを明確にして、プログラムする必要があるのです。



 私は、リードチェンジに限らず馬のトレーニングにおいて、プリパレーション(準備)が全てと考えています。例えばこのリードチェンジならば、後肢の柔軟性やコレクションそれに二蹄跡運動のトレーニングを充分積み重ねることによって、リードチェンジは初めてトライするときから失敗することなくできるものだと考えています。

もし失敗した場合には、これらの準備運動に戻り、何が不足しているのかチェックすることが最優先だと考えています。

                   2008年9月2日

                   
著者 土岐田 勘次郎
                


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