Horseman's Column title

Vol.24 Horsemanship(ホースマンシップ)
馬への近づき方/ リーディング/ケア

 今月は、ホースマンシップについて、がテーマです。
 ホースマンシップといっても奥が深くて、紙面に簡単に書くには限りがあります。
 その具体的方法は、私が販売している「ホルターブレーキング」のヴィデオを見て頂くのが、手っ取り早くて分かりやすいと思います。しかしここでは、そこで伝えきれなかったものを書いてみようと思います。

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 ホースマンシップとは、人が馬に接する時の心構えとマナーだということができます。しかし問題は、人がマナーを守りさえすれば、それで済むということではないということです。
 馬の方にも、人に接するために守らなければならないマナーがあるし、このことが大変重要だということなのです。


 日本の乗馬施設では、人を律するための掲示物を沢山見ることができます。それを見る度に私は、恥ずかしい思いを禁じ得ません。現代日本の文化程度の低さと未熟さを痛感します。
 日本の安っぽい平和主義と同じで、自分さえ兵器を持たずに「平和、平和」と唱えてさえいれば、それで世界の平和が守れるという。馬鹿馬鹿しく未熟すぎて世界の人々には何も通用しない価値観だということが、真面目顔で論じられている。
 このことは、動物の世界に来ると益々エスカレートして、人が愛情を以てペットを扱いさえすれば、全てOKと言ってしまう。
 自分が愛情さえ与えれば、それで全てが済むなどということはあり得ない。相手が人間でさえ済まないことが分かっているのに、相手が言葉の通じない動物なら尚更なのです。
 
前置きは、これくらいにして、ホースマンシップのお話を始めましょう。

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先ず本題は、「人がどんな馬にしたいか。」
という目的がことの始まりでなくてはなりません。


 馬房に馬を迎えに行った時に、人の方に向き直って近づいてくる。
 ホルターを着けようとすれば、馬が頭を下げて、ホルターを着けやすくする。
 裏掘りのために馬の肢を上げようと肢に触れれば、馬自ら肢を上げる。
 人が馬へどこから近づいても、穏やかに受け入れる。
 こんな馬にしたいと思いませんか。勿論噛まない、蹴らないは、当たり前で論外です。


 人と馬が互いに接するために必要なことは、共通の前提条件です。
 例えば人が馬を愛撫しようとした時、馬も愛撫されるという共通の認識を持っていることがないと、人は優しく撫でようとしても、馬は驚いて逃げてしまうかも知れない。
 馬は、自分が理解できないと思うものに出会った時、緊張して逃れようとします。つまり馬が人から撫でられる行為を「優しくされることだ。」と学習する必要があって、この前提条件が整わなければ、人の愛撫を受け入れないということなのです。
 

 人が馬に接する時、原則としてゆっくりとした動作で行うことです。そしてまた馬の斜め前方より肩に向かって、且つ馬に人が近づくことを認知させて近づくことです。
 また裏を掘る時には、馬の肩から触れて、徐々に馬の肢へと触れていくのがセオリーです。後肢であれば、馬の肩から背中を伝わり後肢へと触れていくのが良いでしょう。また馬の顔を撫でようとするのであれば、馬の肩から首へそして顔へと触れていくのが順序です。
 こうした原則を踏まえて、これからのお話を聞いて頂きます。


 例えば、馬房で人に警戒して寄ってこない馬に近づく場合。
 このような馬は、人が馬房に入ったり近寄ろうとしたりしただけで逃げようとします。
この時、つまり馬が逃げようとした瞬間に、馬房の壁をリードロープで叩いたりブンブンと振り回したりして、より脅かします。
すると馬はもっと勢い良く逃げ回るでしょう。
多分人から一番遠い馬房の角や出入り口へ向かって逃げるでしょう。この脅かすのとそれを止める繰り返しの循環は、馬が逃げようとした瞬間や馬房の出入り口や角に向かって、人に背中を向けた時に脅します。決して脅かし続けるのではなくて、逃げようとした時や入り口に向かってエスケープしようとした時に脅します。そして壁を背にして人にふり返った時に、脅すのを止めます。
 すると馬にとっては、人の存在が意識的に大きな割合を占めるようになります。やがて馬は馬房の角へ逃げて人に背を向けていたのが、人に顔を向けるようになります。またリッピングと言って、舌で自分の唇を舐めるような仕草をするようになります。これは馬のリラックスの始まりを意味します。

 人に対して顔を向けるようになったら、ゆっくりと近づきます。するとまた人から逃げようとします。その瞬間に先ほどと同じように馬を脅します。これを何回か繰り返すことによって、馬房の角で人に正対するようになったり、馬によっては人に近寄って来たりします。
 こういう風になってきたら、3歩近づいては2歩下がるようにして、馬の斜め前方から肩へと近づきます。そしてゆっくりと肩に触れて(この時も触れようとした時に、馬がそれを避けるような仕草をした時は、少し馬から手を離すようにしては、また触れようとし、これを繰り返して、焦らずに馬の肩に触れて撫でるようにします。)、馬から後退りするようにゆっくりと離れます。大抵の馬は、この時人に付いて来ようとします。
 ここまでが、馬への近づき方です。

  馬は、サークルオブフィァーというものを持っています。勿論どんな動物でも持っています。人間もまた例外ではありません。

このサークルオブフィァーとは、何かが近づいてきた時にその気配を感じるエリアと理解していただきたい。
 そのエリアの大きさは、それぞれの個体によって様々で違います。

 そこで馬に近づこうとする時に、このエリアの境界線について最も気を配らなければなりません。
警戒の強い馬は、このエリアの境界線に近寄れば、逃れようとします。ですからこの目に見えない境界線がどこなのかを気にしながら、近寄ることが大切です。

 そして、この境界線に近づいた時に、馬の反応が始まります。先ほどの「3歩近づいては2歩下がるようにする。」という行のところが、サークルオブフィァーの境界線です。

 上記のような近づき方は、馬と人間がフラットな関係ではなくて、上下関係においての方法です。


 人が馬房に入ったら、馬の方から寄ってきてしまうのもいます。
何の訓練もしていないのに寄ってきてしまう馬は、馬の性格はフレンドリーだといえるでしょうが、私は好ましいとは思っていません。何故なら人と馬とがフラットな友達関係だからです。私は、最も危険で事故を起こしやすい馬だと思っています。ですからこのような馬でも、馬を先ほどのような方法で脅かして、一旦人から逃げるような馬にしてから、先ほどの方法で近づくようにします。


 こうして馬にホルターをかけます。


 馬の顔を撫でる時、何気なくしている人が多いと思いますが、基本的に人の方から撫でに行かないことが大切です。それでは撫でられないではないかと、心配される人がいるかも知れませんので説明すると、リードロープを自分自身の掌から肘ぐらいの長さで持つ、例えば左手で撫でようとするならば、右手でリーロープを持って、馬の顔の前に左手をかざす、そしてその手に馬の顔が近づいてきた時だけ、撫でるようにします。もし馬が手に向かって顔を近づけて来なかった場合は、リードロープを引いて馬の顔を掌に近づけてから撫でるようにして、決して馬の顔を手で追いかけないようにしましょう。

何故なら、人の掌が馬にとって、スィートスポットになるようにすることが大切だからです。もし馬の顔を手で追いかけてしまえば、馬の方に主導権があるということになってしまうということなのです。
 こうして普段から、馬の顔の前に掌をかざしたら、馬の方からその掌に向かって顔を寄せてくるように訓練しておくだけで、馬の心は、人に対して従順に育まれるようになるのです。
 

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 ホースマンシップのトレーニングは、マジックではなくて理に適った方法であって、誰にでもできるのです。マジックの如く言う人がいれば、それは大変胡散臭い話だと思っていただきたい。

 馬は大変警戒心の強い動物です。それだからこそ人が愛情を注ぐ時には、その行為を愛情だと理解するような馬に、トレーニングする必要があるということを日本人は知らなくてはなりません。
 人が上手に馬を扱えるように、訓練することは必要です。しかしそれは只単に人を律することだけで解決することではありません。
 人がどんな態度をするような馬になって欲しいかという目的を持って、その目的を達成するために馬を訓練することによって、必然的に人自身が訓練されてしまうことが最善の方法だと思います。


 私がこれまで一貫して言っていることは、人がライダーとして上達することもリーダーとして上手に馬をあつかえるようになることも、全てはどんな馬になって欲しいのかという目的に向かって、なすべき行為を推し進めることによってできるようになることであって、必然的に人が育成されることがベストだし、この方法以外に人を育てる方法はないのです。
 日本における乗馬関連の本や雑誌の類は、全てが人のスキルアップを馬のトレーニングとセパレーツして語られている。このことが続けられている限り、日本が乗馬先進国になることはあり得ない。


 馬の緊張を解くには、その行為を止めることではなくて、続けることなのです。例えば、マウントする時に馬が動いてしまう時、大抵の人は、動かないようにレインを引いたり押さえたりという何かをします。しかし全てのライダーは、マウントする時じっと動かないで欲しいのに、じっと動かないで人をマウントさせる馬にするトレーニングだと考えないで、マウントする作業を急いでしまう。そんな発想だから馬を押さえつけて、動けなくするようにして、マウントしようとするから馬は益々緊張して動くようになってしまうのです。
 こんな時私は、レインを少しだけ弛みがあるように持ち、サドルの鐙を持ってフェンダーを揺さぶるようにして、プレッシャーをかけます。すると馬はもっと動いてしまいます。馬がもっと動けば、もっとフェンダーを揺さぶり続けます。これを続けると最初の間は緊張しますが、ものの1〜2分もしない内に、じっと動かなくなります。動かなくなったら撫でてあげて、マウントします。

 こんなことは、その方法を知ることによってできるようになるわけではなくて、先ず自分自身に、どんな馬になって欲しいのかという目的をしっかりと持つということさえあれば、誰にでも発想することができるし、馬が人を受け入れるには、人から受けるプレッシャーを受け入れる訓練が必要なのです。それにはある一定の学習に必要な時間、そのプレッシャーを続けてあげる必要があるのです。只その続けるプレッシャーに痛みが伴えば、馬が緊張から学習へと転換することは難しいことになるでしょう。

 ホースマンシップは、先ず馬を扱う人が、馬に対する希望と目的をしっかりと自分自身の中に構築することが始まりと思います。

2009年2月1日

  著者 土岐田 勘次郎


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