ライダーのポジションニングは、ライダーの重心を何処に置くかということであり、それはライダーのバランシングに大きな影響を持ち、またそれだけでなく馬の重心バランスや運動に直接大きな影響力を持つ。
ポジショニングを説明することは、そんなに複雑で難しいことではないが、そんな論理を軽視するわけではないが、ライダー自身の感覚でスイートスポットを見つけることが何よりも大切なことだ。
馬は、前肢:後肢が6:4の割合で体重を配分しているといわれている。また馬の重心は、第12肋骨の中心付近にあるといわれている。勿論個体差はありますが、そんなことは大きな問題ではない。
前肢へより多くの体重が負重しているということは、馬は前肢で自分の体重を持ち上げて、後肢で推進していると考えられる。ということは、直線運動が得意で方向転換や曲線運動があまり得意でないという構造を持っていることになる。
肢の間接もまた、前後に動くだけで横に曲がる機能を持っていないこともあって、方向の転換は機能的にも苦手だということもいえる。
この馬の特性を理解した上で、乗馬を考えなくてはらない。
乗馬と競馬との違いは、極論すれば方向の転換が絶えず求められるかどうかという点で、乗馬は、絶えず方法の転換や曲線運動やその為の準備が求められる。
そのために乗馬においては、ウエスタンやイングリッシュに関わらず、6:4の前肢:後肢の体重配分をより後肢へ移行させて負重させるということを、前肢に負重する負荷を後肢へ移行し軽減して、方向転換を前肢で容易にできるようにする。この後肢へのバランスバックは、あらゆる運動のコアとして、やらなければならことだということができる。
後肢への負重を大きくするように体重配分を移行するには、大凡2つの方法がある。その一つは後肢をより前に踏み込ませて馬の重心の真下に来るようにすることと、馬の頭を持ち上げるように高くすることによって、重心バランスを後肢へ移行するようにすることだ。つまり重心をそのままにして、後肢を重心の近くへ移動させるか、重心を後肢へ移動させるかの違いがある。
バランスバックを厳密に説明すれば、馬の頭を高く持ち上げて重心を後肢へと移行するようにすること、つまり重心を後肢へ移動するようにすることをいうのであって、重心の真下へ後肢を踏み込ませて、後肢へ重心を負重させるのは、重心自体の移動は行っていないので、バランスバックとはいえないのかも知れない。しかしここでは、重心を後肢へと移行することを総称として、バランスバックということにする。
ドレッサージュは馬の頭を高く持ち上げる方法で、レイニングやカッティングでは、後肢を重心の真下へ踏み込ませる方法で、重心を後肢へ負重するように移行する。
ウエスタンやイングリッシュに関わらずバランスバックすることは必要なことで、後肢を駆動して馬を推進して、前肢を駆動して方向を転換することが乗馬においてはセオリーで、勿論方向の転換は、前肢でも後肢でもできることだが、乗馬においては、後肢の踏み出し角を一定に保つことによって前肢で方向転換する。
これらのことを踏まえて、ライダーのポジショニングを考える必要がある。
ライダーの姿勢は、そのポジショニングと密接な関連性を持つ。つまりライダーのポジショニングは、馬をドライブするために規定されるものであり、馬をより促進したり抑制させたりするためにというベクトルを保つ。
ライダーは、座骨でサドルを捉えるようにそのスイートスポットに大半の体重を負重させるようにして、できるだけ鐙に自分自身の体重をかけないように座る。
人によっては、ライダーはしっかりと鐙を踏まなければならないというが、私の考えは違うのである。何故なら、鐙へライダーの体重を負重すると、馬の前肢の硬直を生んだり、ライダー自身のリラックスを壊したりするので良くないと考えている。また馬の前進気勢を阻害する恐れもあるのである。
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この時ライダーの姿勢は、一般的にいわれるようにライダーの耳から腰そしてヒップのところまでが一直線になるようにして、そこから膝を少し曲げるようにして、先程の上体の線の真下に足の踝が来るようにして、踵を軽く下げて鐙を履く。
この時ライダーの体重が座骨に、特に上体の体重が少しだけ後方から斜め前に負重していくようにするために、足を前に突き出さないように上体の線の延長線上に、踝が来るように位置しなければなりません。
足が前に突き出てしまうと、馬の上下動によって起きるライダーの上体の負重が、鐙によって支えるようになってしまい、馬のドライブを抑制してしまうことになるのだ。
ライダーのポジショニングは、馬の運動によって起きるライダーの上体の上下動を、馬の推進へと転化するように、斜め後方より座骨に向かって上体が落ちるようにして、馬を推進する。
足を前に突き出して鐙を履くと、その上体が落ちるときに起きる推進エナジーを鐙で支えるようになって、馬を推進することに繋がらなくなってしまうのだ。
ライダーの上体が耳からお尻まで一直線になるように位置づけするが、このときに背筋をしっかり伸ばそうとして、背筋や腹筋を力んでしまうことにならないようにしなければならない。
腰の緩み具合は、ライダーの感覚によって、フレキシブルに馬の反動を受け流さなければならないので、あまりに姿勢を正そうとして、腰や背中に力みが出てしまっては、馬の背中をお尻で叩いてしまうようになるのだ。
上体の負重を座骨に向かって斜め後方よりかかるようにするとは、決して上体を後掲するようにという意味ではない。上体を真っ直ぐに保つようにすれば、馬が前進しているので必然的に少しだけ斜め後方から、座骨に向かって負重するようになるものだ。また、あまりに前傾したりつま先を下げたりして踵を上げてしまうように鐙を履くと、馬の推進力を抑制するように負重してしまう恐れがある。
ポジショニングのセオリーは以上の通りだが、実際にライダーに求められることは、ライダーの感覚で前傾したり後掲したりして、馬のドライブの状況との関連性をフィールとしてスィートスポットだと感じるところを、探し当てなければならないことだ。
そしてポジショニングは、臨機応変でなければならないことで、バランスフォーワードやバランスバックが、必要に応じてできるようにしなければならない。
そしてこれまであまり言及されていないことだが、ポジショニングとして重要なことは、前後の位置づけだけではなく、左右のポジショニングが大切なのだ。
問題は、馬のセンターに位置するようにすることは言うまでもないことだが、これがしっかりと守られているライダーが意外に少ないということだ。
ビギナーライダーにはあまり見られない現象で、ビギナーライダーには前傾したり後掲したりしてしまう人は多く見られるが、左右のどちらかに偏ってしまう人は少ない。しかしサークル運動における内方姿勢を、馬に求めるようなレベルのライダーになると、必ずといって良いほどサークルの内方へと肩そして腰まで開いて(馬の縦の中心線に対して)しまうために、外方の鐙へと偏った体重の掛け方になってしまうのだ。
ライダーの腰や肩は、馬の縦の中心線に対して直角に位置するようにすることが大切で、サークル運動のような曲線運動においても、直線運動においてもこのことに変わりはない。
ポジショニングは、ライダー自身や馬のバランシングと大変密接な関係を持ち、脚やハミでのガイドの妨げになってしまうのは、このポジショニングであることが多く、しかしライダーにそれを気がつかせないという特徴を持つものだ。
日頃から意識して、視線とか左右の体重バランスとか幾つかのチェックポイントを作って、絶えず意識的にポジショニングを正すようにしなくてはならない。いつの間にかポジショニングに偏りができてしまって、ライダーは気付かずにいることが往々にして起こりがちだから、注意を怠らないように努めたいものだ。
ポジショニングは、第二の脚だといっても良いほどに、馬の体勢やガイドや推進に大きな影響を持っているものなのだ。
2009年6月17日
著者 土岐田 勘次郎
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