ボイスキューとは、ライダーの声とか舌打ちなど音を発することで、馬に対して合図の意味を持つように理解させて、これを合図(キューイング)として使うことをいいます。
ボイスキューだけではなくあらゆるキューイングが有効に作用する為には、馬とのコンセンサスが取れていなければならないことはいうまでもないことです。
馬に対して行う指示には、キューイング(合図 Cueing)とエイド(扶助 Aid)の2つに分けて考えられています。
この2つの馬に対する指示は、馬の運動を補助するようなものをエイドといい、単なる命令をキューイングというように分けて考えられています。
単なる命令とは、直接的に馬の運動に影響を与えずに命令や指示をするということです。
エイドの代表的なものは、ライダーの体重移動やレインを引っ張ったり脚で馬のステップを促すようにプレッシャーをかけたりするなどがあります。
一方キューイングは、代表的なものがボイスキューで、レインを馬のネックにタッチしてタッチした側の反対側へと動くようにしたり、脚を馬のボディにタッチしただけで、駈歩を促したりするのがあります。
キューイングが馬に対して確実な指示としての意味を持つには、このエイドとキューイングの2つを組み合わせて使うことによって、キューイングが有効に機能するようになるというメカニズムです。
例えばレインを馬のネックの左側へタッチして、少しのタイムラグの後に右へレインを引っ張る。これを何回か繰り返すと、レインを左側のネックにタッチしただけで、馬は右へと動くようになる。
これが典型的なエイドとキューイングの組み合わせで、キューイングを有効に機能させるためのトレイニングなのです。
また、馬の速度を上げる為にボイスキューであるキッスを使って、その直後に脚のプレッシャーをかけることを何回か繰り返すことによって、キッスを使うだけで馬が脚のプレッシャーを、予想してスピードを上げるように反応をするようになるのです。
更にまた、馬にストップをトレイニングする時、先ずウォーを発声して馬がストップしなかったら、レインを引いてストップをさせます。この時にウォーの発声する時は決してレインを引きません。これを何回か繰り返せば、馬はウォーと発声するだけでストップするようになります。
原則的に馬は、高い音に対して運動を促進、低い音に対しては減退するという特性を持っています。
一般的に使うボイスキューとして、ストップを命じるときに発するウォー(Whoa)は低音でいうことに意味があって、ウォーと発音するかどうかよりも低い音であることの方が重要です。因みにアメリカでは、馬をストップさせる為に「ウォー(whoa)」といいますし、日本では昔から「ばぁ」と発声します。またキッス(Kiss)は、チュッチュッと発声して高音を出せば、馬の運動を促進させます。
ただ何事もそうだが、普段からライダーが癖のように何かにつけてボイスキューを使い続けると、馬は慣れてしまってそのボイスに対しての反応が鈍くなってしまうものです。
ボイスキューは、馬の特性を活用して且つ訓練して、そのボイスキューによる確実な馬の反応を作り出すことが必要です。習慣づけてしまうのではなく、馬の意識がライダーのボイスキューによって、反応しなければならないといようにしなければなりません。
馬をコントロールする時に、上級者になればなるほどよく見ないと分からないほど小さなプレッシャーで行っています。それはエイドとキューイングを上手く組み合わせてトレイニングした成果であるということがいえます。
勿論その時に馬のメンタルがライダーへコンセントレーションしていることは必要ですが、エイドは、必要な運動に対する必要なプレッシャーの大きさは、絶対値としてその力の大きさが変わるということはない。しかし、エイドとキューイングを組み合わせて馬をトレイニングすることによって、馬の脳をキューイングと馬のしなければならない運動とを一致させるように訓練することによって、より小さなプレッシャーで、馬の反応を作り出せるようになるという仕組みなのです。
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私はボイスキューを、ストップの場合に使うウォー以外は、ボイスキュー自体が馬の運動そのものを要求するものに成らないようにしています。
つまりストップの場合は、ウォーをいったときは、必ず馬に対してストップを要求するということです。馬がウォーイコールストップと理解していることを求めるということです。そしてウォー以外のボイスキューは、馬の運動そのものを意味するのではなく、現在進行形の運動を促進する為に使うということです。
私は、スピンやサークルでスピードアップする場合などにおいて、キッス(ボイスキュー)を使う。この場合に、普段一定のスピードでサークルやすピンをしているときに、ボイスキューは使わないようにしています。
何かにつけて癖のように、ボイスキューを使う人をよく見かけるが、私はこれに反対で、普段から意味もなく習慣的にボイスキューを使っていれば、そのボイスはキューイング(合図)の意味を持たなくなってしまうのです。 ボイスキューだけのことではありませんが、特に一貫性を徹底する必要があると考えています。 例えば、ウォーの場合のストップについては、ライダーがウォーを発声したとき必ずストップを徹底して要求することが大切だと思っています。 ぴたっと停止しなかった場合は、必ずバックアップさせて、普段から徹底してウォーの発声があったとき、馬は必ずストップしなければならないようにします。
2〜3歩歩いてしまったり1ステップ前進してからストップしたりしたときは、必ずバックアップさせることを徹底する必要があり、ぴたっとストップしたときは、その場で停止したまま少しでも良いから馬に対してリラックスを与えることが大切だということはいうまでもありません。
また、促進する為のボイスキューは、馬が求める運動をしていることが前提で、必ずボイスキューを発声してからエイドとして脚やレインによるプレッシャーをかけて、馬はボイスキューの後にプレッシャーをかけられるので、ボイスキューがあったときにプレッシャーを連想するようになって、ボイスキューだけで運動が促進するようになります。この時ボイスキューだけで運動が促進しなかった場合は、直ちに脚やレインによるプレッシャーかけるなどして、運動を促進させることを徹底しなければならないのは、ストップの場合と同様です。
従って、促進のボイスキュー(キッスやクラックなどの舌打ちなど)は馬の運動のスタート時に使うことはありません。運動を始める為に使うということは、ボイスキューが運動そのものを意味しなければならなくなるから、例えばスピンを始めるときやサークルを始めるときなどに、ボイスキューを使うのではなく、先ずその運動が始まってからその後に、運動を促進する場合にのみボイスキューを使います。
ボイスキューにおいてライダーが重要視しなければならないことは、
─…──…─…─…──…─…─…──…─1.一貫性を持つこと。
2.ボイスキューを先にその直後に、つまりタイムラグを作ってエイド(扶助)を行うというパターンを守ること。
3.ボイスキューを使った後に必ずエイドによって、要求する運動を馬にさせてから、そのエイドによるプレッシャーを解くこと。
4.ウォー以外は、馬が運動を始めてから使うこと。
5.決して習慣性を待たないこと。
6.絶えずエイドとキューイングの組み合わせを考えること。
7. その他。
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キューイングは
ボイスキューだけに関わらずに、エイドとキューの組み合わせによってそのメカニズムを構築し、馬に対してより小さなプレッシャーで、ライダーが馬のコントロールを達成する為にあり、エイドからキューイングへとシフトするのは、ライダーの指示をプレッシャーに頼ることなく、コミュニケーションによって行おうとすることなのです。
2009年9月28日
著者 土岐田 勘次郎
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