新年第一号は、スピードコントロールです。
スピードコントロールは、レイニングホースにおいて馬の性質やメンタルの能力が一番発揮されるパフォーマンスだ。
また、レイニングというスポーツにおける代表的なパフォーマンスは、スライディングストップのように思われているが、それは写真だと分かりやすいのと、他のパフォーマンスは、写真にすると何をしているのか分かり難いことも手伝ってのことで、レイナーにとって何が一番だと聞けば、きっとスピードコントロールだというに違いない。
レイニングホースでなくてもライディングホース全般の良否を決定するのは、メンタルが穏やかで、ハードな運動をした直後でも直ぐに穏やかな状態に戻るような、能力を持っているかどうかだろう。
レイニングにおいてこのことを一番強調するようなパフォーマンスといえば、スピードコントロールそのものなのだ。
スピードコントロールをするにしてもその為のトレーニングするにしても、準備しておかなければならないことがある。
その一つは、ガイドについて馬とライダーとの間で約束事ができていること。
ガイドができていれば、サークルにおいてスピードコントロールしている間に、ガイドのための指示が最小限で済むので、馬もライダーもスピードコントロールに集中できるということだ。
特に、ライダーのウエイトシフトでサークルの軌道が決まるようになっていることが大切だ。
つまりライダーと馬とで作る重心が一定に保たれて、そのバランスでサークルの軌道が決まるということで、このことによってルーズレインでのガイドやサークルの途中でサークルの軌道修正をする必要が少なくなって、馬もライダーもスピードの緩急に集中することができる。
(注釈): 重心とは、質量の中間点をいう。
馬の場合は、第12肋骨付近にあるといわれており、人が馬に跨る時は、人と馬との質量の中間点に新しい重心が生ずる。
ライダーと馬のそれぞれの重心と新しい重心との距離が、ライダーがバランスを崩したり馬がイレギュラーな動きをしたりしたときに、変化すれば新しい重心の位置が変化する。
もう一つは、馬がライダーに対して集中していること。
馬がライダーに対してコンセントレーションしていることが、ライダーのポジショニングを変えることによって、その変化を馬が気付くことができて、その変化に対応した反応によって、スピードが速くなったり遅くなったりするというメカニズムだ。
スピードコントロールのトレーニングをする場合、馬の性格が大きな関係性を持つ。その関係性を大局的に2つに分けてみることができる。
一つはスィッチを入れることによって動作する馬と、もう一つはスィッチを入れることによって動作を止めるという2つの性格だ。
つまり、絶えず動きたいという馬と、できれば止まっていたい動きたくないという馬という2つに区分することができるということだ。
どちらの性格でも極端に偏向しているものは、ショーホースやレイニングホースや一般的乗用馬として向いていない。
例えば、スイッチを入れることによって動作する馬は、一般的に温和しいといわれる馬であるが、極端にそうであると、馬がレイジー(怠け者)で、絶えずライダーが推進していないと動かないので、機敏性や俊敏性がないので難しい。
また、スィッチを入れると止まるという馬は、一般的にホットな馬といわれる場合が多く、やはり極端だとゆっくりとした動作がし難かったり、一旦スピードを上げたりハードな動作をしてしまうと、興奮して中々治まらない馬が多い。
それまでのトレーニングによっても、スィッチを入れることによって馬が動作を始めるようにと考えられていることが、スピードコントロールに限らず全てのパフォーマンスにおいても、ライダーが命令したときにのみ馬がそれに即応するということが重要だ。
また、これに付随して馬がライダーへコンセントレーションションして、ライダーのキュー(合図)に対して、何時でも対応しようと耳を傾けて待っているようでなくてはならない。
スピードコントロールというと、誰でもが速いスピードから遅くなることをイメージする。しかし先ず大事なことは、馬がゆっくりとしたスピードでリラックスして走っていることだ。そしてライダーが何らかの方法で、スピードを上げるように指示したときにスピードが速くなるということが重要で、このことをライダーは何よりも優先して認識していなければならない。
何故なら、スピードコントロールにおいて、ライダーが上げたスピードは落とすことができるが、馬が勝手に上げたスピードは落とすことが難しいからだ。
スピードコントロールのトレーニングとして考えなくてはならないことは、ショーイングである。実際にショーイングの時に馬が緊張状態にある状況を考えて行わなくてはならない。
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つまりショーイング中は、多少馬によってその度合いは違うかも知れないが、馬にとって極度の緊張状態にあると考えなくてはならない。従って特に、スローダウンする時馬にとってはっきりと分かるキューイングが必要だ。
分かりやすいのはレインを引くことだが、できればそうはしたくない。何故ならレインコンタクトしてスローダウンするよりノーコンタクトでスローダウンできた方が、より高度だと見なされるからだ。
トップレベルのショーイングを見ると、ライダーが特にスピードを落とすために何もやっていないように見えるのに、馬のスピードが落ちる。
馬がスピードを落とすときに、ライダーがレインコンタクトするかどうかで評価が変わるわけではなく、ライダーの指示に対して少しの抵抗も見せずに、その指示に従っているかどうかで評価が決まるのがジャッジの観点だ。しかし、レインコンタクトなしでスピードが落ちる馬と、レインコンタクトしてスピードが落ちる馬とでは、当然レインコンタクトなしの方の馬の評価が高い。
私の場合は、原則的にスピードを落とすときにレインコンタクトをしないで行いたいと思っている。
従って、スピードを上げている状態の時と落とした時の姿勢を変えて、レインコンタクトの変わりをしている。
つまりスピードアップしている時は少し前傾姿勢を取り、スローダウンする時はその前傾姿勢から上体を起こして通常姿勢に戻し、この姿勢の変化に連動して馬がスピードを変えなくてはならないと思うようにトレーニングする。
具体的には、前傾姿勢(バランスフォーワード)をとって馬のスピードを上げて、上体を起こしてウエイトバランスを通常に戻すことによって、スローダウンする。
スピードコントロールのトレーニングにおいて、重要だと思っていることは先ず、スピードを上げている時に、できればワンストライド毎にハイスピードを維持するためにドライブしていることができれば理想で、馬がワンストライド毎にドライブされてそのハイスピードを維持していると感じてくれるようにしていることだ。
このためには、馬の通常スピードがゆっくりとしたものとなっていなければならい。 馬が収縮してロープしていることが大切で、収縮していることによって、馬はゆっくりしたロープが可能になる。
そしてスピードをアップするのにライダーが前傾姿勢をとって、馬をドライブしてハイスピードにする。そしてスローダウンするために前傾している姿勢を戻して、スピードの減退を促す。
ここからスローダウンを確かなものとするために、前傾姿勢を通常姿勢に戻して馬に対してスローダウンのキュー(合図)を出す。この時、決してレインを引くことのないようにする。
そして、馬がスローダウンしなかった時に、姿勢を戻してから少しのタイムラグを作って、レインを引いて馬をストップさせる。
この時私の場合は、馬をストップしてバックアップさせたりレインをジャークしたりなるべくしないようにしている。何故なら、馬がスピードコントロールのトレーニングにおいて、ナーバスな状態になるのを避けたいからだ。
また、馬のメンタルにとってスピードコントロールのトレーニングは、結構ハードなことだしリスキーなことだからである。
例えば、このトレーニングによって、馬がライダーの姿勢の変化に伴って興奮したり、サークのセンターで、懲罰を予測しピードアップしてしまったりしてしまうことがあるのだ。
従って私は、このトレーニングを繰り返す時に、馬をストップさせた後ゆっくりとウォークさせてディパーチャーの位置まで戻って、再びこのトレーニングを繰り返すようにしている。
そしてまた、スピードアップさせる前に必ず一周のサークルはゆっくりとしたロープをしてから、スピードアップするようにもしている。
後々このトレーニングの完成度が増したころには、サークルの最初からスピードを上げたり、スローダウンのキューイングをしてもスローダウンしなかった時に馬をストップさせて、バックァアップさせたりすることもあるが、なるべくそうしないようにしている。
またオールドホースでスピードコントロールが壊れてしまった馬の場合は、ケースが色々あるので一概にその修復方法をいうことは難しいが、敢えて一例を挙げれば、スピードを上げるとサークルのセンター近くまで来ると、却ってスピードアップしてしまうようになってしまったケースは、3周4周とスピードサークルを続けて、馬の方からスローダウンしたいと思うようになるまで、続けてからスローダウンを促すようにする。
また一旦スローダウンするがスモールサークルを1周する間に、スピードアップしてしまう場合は、やはり何周もスモールスローサークルと続けるようにする。
スピードコントロールは、レイニングホースにとって一番その能力を発揮するパフォーマンスではないかと思う。
特にレイニングホースの最大の評価としてよく使われる言葉として、
Anybody can ride
があるが、この言葉の相応しい馬は、スピードコントロールの優れた馬だ。
2009年12月27日
著者 土岐田 勘次郎
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