今月のテーマは、ディパーチャーにおけるコントロールだ。
レイニングのショーパターンでは、ウォークインとランインの2つがある。
そのショーイングにおいて、1回のディパーチャーだけのものと2回のディパーチャー、そして3回のディパーチャーのものがある。
このディパーチャーの数だけショーイングおけるリスクがあると考えなくてはならない。
例えば、NRHA(National Reining Horse Association)のパターン2/6/8は、ディパーチャーが1回のケースで、パターン4/5は3回あって、そのほかのパターン1/7/9/10は2回だ。
それらのディパーチャーにおいて、ウォークインのパターンではコレクトリードが、ランインのパターンではファーストマーカーまでにロープ発進することが求められる。
ディパーチャーにおいて求められることはコレクトリードで、犯しやすいミスといえば停止やウォークからロープ発進するところで、ジョグが入ってしまうとかロングリード(指定されたリード以外のリード)になってしまうということだ。
ジョグが2ストライド以下だと1/2ポイントペナルティ、それ以上1/2サークルまたは1/2アリーナまたはセンターマーカーまでで2ポイントペナルティ、そしてそれ以上だとペナルティ0となる。
そしてロングリードの場合は、ロングリードが出ただけで1ポイントペナルティで、後は1/4サークル毎に1ポイントずつペナルティを加点される。
以上の通りなので、ディパーチャーの数だけリスクが多くなるということなのだ。
ルールだけを考えれば、ライダーが望むリードのロープ発進をすれば良いだけだが、表面上正しいというだけでなく馬のメンタルやフィジカル的バランスなどを、コントロールしてディパーチャーが正しく行われることは、その後のライディングの善し悪しを左右するほどの影響力を持つといえることでもあるのだ。
私の場合は、ディパーチャーのためのトレーニングを、特に改めて行うということはない。
普段からウォーからトロットへ、トロットからロープへ、ウォークからロープへと移行するときに、移行前に求めていた馬のフレームやメンタルのテンションをそのまま維持してトロットやロープへと移行することで、パフォーマンスのトレーニングに平行して行うようにしている。
例えば、トロットの時にヘッドセットして運動を行っていたら、そのヘッドセットを維持したままロープへと移行するようにする。こうすることによって、移行時点の状態を維持したままロープを続けることが容易にできる。
特にトロットにおいて柔らかくヘッドセットして運動していても、ロープへ移行するときにヘッドアップしてしまう馬が多く、一旦求めていたフレームやヘッドセットを壊して移行すると、移行後にもう一度それらを求めようとしても、このような馬ほど抵抗が強い。しかし移行するときにこれらを維持したまますると、その後はヘッドセットやフレームを維持したままロープを続けることができるのだ。
それにもう一つ注意していることは、移行をするときに馬のテンションをそのまま維持することも併せて意識している。
トロットからロープへ移行するとき、ステップのテンポが急に速くなったり、トロットのテンポが速くなってロープへ移行しようとしたりすれば、一旦停止したりバックアップさせたりして注意を促し、必ず同じテンポで移行するようにすることも大切にしている。
この2つのポイントを普段のトレーニングにおいて、必ず励行するようにしていると特段ディパーチャーのトレーニングをする必要がない。もし改めてディパーチャーのトレーニングが必要だとしたら、その馬のトレーニングプログラムや問題点を基本的に考え直す必要がある。
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ただ、ヘッドセットについては、容易に維持したままロープへと移行できる馬とそうでない馬がいて、そうでない馬であれば、これを求めるあまりテンポが崩れて移行するようになってしまっては良くないので、テンポの維持を優先してこの段階では、ヘッドセットを無理しないことが大切だと思う。そして、後肢の踏み込みや左右の柔らかさをトレーニングによって向上させた上で、これを試すようにするように考えている。
それから、普段運動の移行において絶対妥協しないということが大切だ。例えばロープオフするときに、後肢がインサイドステップして前肢はストレートにステップして行うようにしているとすると、これは全体に守らせるようにディパーチャーを行う。
これらのうち何がしかを、ミスしたままロープオフすることはしない。勿論コレクトリードを求めることは、いうまでもない。
初心者の中にはあまり見られないが、中級以上のライダーに見られることは、ロングリードでディパーチャーをしてしまっても、そのままロープを継続して途中でチェンジリードをしてコレクトリードに直して済ましている人を見受けることがある。
これは大変良くないことで、ショーイングのときつい馬がミスリードをしてしまうようなリスクを持つようになって、そのときに科されるペナルティは大きく、パフォーマンスにおいて取り戻すことは困難だ。
妥協しない運動の移行とは、その時点における馬の訓練度によって求めるものが変わるが、ここまでは求めて移行をしようと決めて、その決めたことについて何ら妥協して移行することはないように心がけなければならないと考えている。
例えば、求めようとしている内の幾つかを馬がミスして、移行をしようとしたときは、必ずストップしたり移行前の歩様に戻して巻き乗りしたりして、何度でも正しい移行をするまでやり直すようする。
私がディパーチャーにおいて馬に求めることは、メンタル面では馬がライダーにコンセントレーションしていること、フィジカル面では後肢から運動を始めること。この2つが最優先課題だと考えている。
そして馬によって異なる要因として、ヘッドセットや内方姿勢などのフレームなどがあるが、これらは馬の特徴や必要性などにおけるケースバイケースで、求めなければならないかどうかを考えることにしている。
例えば、ヘッドセットは、後肢の踏み込みがヘッドセットするのとそうでないのではかなり違いが出る馬の場合は、ヘッドセットすることを求めるし、フレームについても、内方姿勢をとらないと極端にショルダーが倒れてしまうような馬の場合は、しっかりとフレームを整えてからディパーチャーをするように心がける。
ディパーチャーは、普段トレーニングに平行して行っていくが、だからといって軽く考えて良いと思っているわけではない。とても大切にしなければならいと思っていて、特にショ−イングにおいては、ディパーチャーが思い通りにいくことは、馬にとってだけではなくて、ライダーにとっても安心感を持つことができて、ショーイングの結果をより良く誘導する可能性を大きくする。
だからこそ、普段からディパーチャーの完成形を認識して、パフォーマンスのトレーニングをするにつけて様々な運動の移行において、求める運動のテンポや馬の体勢をしっかりと妥協なくトレーニングしておくことで、ディパーチャーをパーフェクトに近づけることができるのだ。
そしてこのことによって、馬もライダーも決まり事について認識を共有することができて、安心して運動の移行ができる。
つまり、ディパーチャーとは運動の移行の一つであり、運動の移行の精度を高めることによってそのクォリティが高くなり、ライダーと馬との共通認識としてかくあるべきディパーチャーを共有することで、ライダーにも馬に対しても安心感を与えてくれるといことなのである。
2010年3月25日
著者 土岐田 勘次郎
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