Horseman's Column title

    VOL.1 「バランシング」

 第1回の今月のテーマは、乗馬においてライダーに求められる最も重要で、しかも最初に、それでいて永遠の課題としてのスキルである、バランシングについてである。

 ライダーが乗馬を始めて最初に感じることは、個人差があるけれど目線の高さや不安定感や恐怖感だ。 初めて馬に乗った時、見せるライダーの症状には2つに特徴が見られる。

 一つは前傾もう一つは、後傾だ。勿論そのどちらでもなく真っ直ぐに乗る人も希だがいることはいる。
 前傾する人は、恐怖感を強く感じる人つまり恐がりで、後傾する人は恐がりでない人だ。

 どちらが良いとか悪いとかいう話ではない。何故ならどちらも馬から受ける反動を軽減しようとして、バランシングしているからだ。従ってインストラクターは、これを矯正する指導をしてはならない。
矯正しようとすれば、この初心者は立ち所にバランスを崩してしまって、馬にしがみついたり体を硬直させたりして、色々な弊害を来すことになる。

 馬の反動として受ける上下動を、ライダーがそのまま体に受ければ、そのままの衝撃で頭が上下動する。ライダーは頭が上下動することによって、目で見える景色がぶれてしまい、このことによって不安感を感じてしまう。
 この不安感が恐怖感を募らせて、ライダーが持っている反射神経としてのバランス感覚を阻害して、益々体を硬直させることによってアンバランス状態を加速させることになって、人によってはパニック状態を引き起こす。

 人は、自然にこの状態を避けようとして、馬の反動である上下動を、体を前後傾させたり後傾させたりして、頭が上下することを防ごうとしている。

 つまりライダーはこのときに、自分ができる最高の手段(前後傾)を講じて、バランスを取ろうとしている。だからこそインストラクターは、姿勢を教えると称してこの前後傾を矯正しようとしてはいけない。もし矯正するようにインストラクターがライダーへ指示を送れば、ライダーは意識的に自分のフィジカルをコントロールし姿勢を整えようと努力する。意識的にフィジカルをコンロールしようとすれば、無意識にフィジカルをコントロールしている反射神経の機能を阻害してしまうことになって、却ってアンバランスを引き起こしてしまう。

 バランスの実態は、自律神経で司っている機能で意識的コントロールをすることができないものだ。しかし、意識が極度の緊張状態になるとこの自律神経の機能に障害を起こす。つまり緊張するとアンバランスになるということだ。従って、ライダーが持っているバランシング能力をフルに発揮するためには、意識レベルがリラックス状態を維持していることが重要だいえる。特に意識的にフィジカルをコントロールしようとしないことが、何よりもバランスが取れる有効な手段なのだ。

 特に意識レベルが緊張状態になると、その意識(エモーション 感情)をコントロールすることが困難になる。それが恐怖心からくる緊張であれば、意識のコントロールは益々できなくなって、その結果アンバランスを来たし、アンバランスになると恐怖心を煽り、更にアンバランスになるというスパイラルを引き起こす。

 エモーションのコントロールとバランシングは密接な関係を持っているということと、バランシングは自律神経がコントロールしていることで、意識的にコントロールすることができないということとを合わせて、バランシングの養成を考えなくてはならない。

 一般的乗馬社会では、初心者に対して最初にレクチャーすることを騎乗姿勢だと考えられている。このことが大変な間違いだ。

 騎乗姿勢をレクチャーされる初心者は、充分なバランシング能力が養成されていない段階で、指示を受けた騎乗姿勢を意識的にボディコントロールして試そうとする。途端に自律神経機能を阻害してアンバランス状態を引き起こす。

 初心者のライダーに対して、騎乗姿勢を矯正することは百害あって一利なしということだ。

 ある地方でインストラクターのための講習会に招かれた時に、バランシングと騎乗姿勢についてインストラクター諸君に尋ねてみると、殆どのインストラクター達は、初心者のライダーに対して最初に騎乗姿勢をレクチャーするそうで、そしてその成果について再度訪ねてみると、ライダーが上級者になってバランシングが充分に養成された後でなければ、その成果は現れないということだった。
 つまり充分なバランス感覚が養成された後でなければ、騎乗姿勢を取ることができないと異口同音に、ここに集まったインストラクター達はいうのである。
全く馬鹿げた話だ。
 充分バランスが取れるようになった後で、騎乗姿勢を会得する練習をすればいいということが結論だ。

 さて、そのバランス感覚を養成するためには、何も考えないことが一番良い練習方法だ。しかしながらライダーが馬に乗っているときに、何も考えないということは、何かを考えるか意識していることよりも難しい。
従って、何か一つか二つにことに対して意識を集中することによって、そのこと以外にことについて解放されるように工夫することに方が、何も考えないように努めることよりも、簡単にリラックス状態に近づくことができる。
 しかしこの意識することが、自分の体を硬直させたり緊張させたりすることであってはならない。

 そこで、一番良い方法は、自然だと思えたり心地よさそうだと思えたりするような、良くバランスの取れたライディングの映像を見ることだ。そしてその映像をなるべく思い浮かべるようにする。
 この映像をなるべく、どの部分をどうしているとか論理分析するような意識で見るのを止めて、感覚的に心地よさそうだとか格好良いとか柔らかそうだとか颯爽としているとかいうように、味わうようにしてみることが大切だ。

 そして実際にライディングするとき、その映像をイメージして、その雰囲気をそのままコピーするようにするということで、意識することといったら力を抜いてリラックスするとか、楽しいことを思い描いてとかいうように、心がける。

 できればラウンドペン(丸馬場)や調馬索での運動をから始めるのが良いでしょう。何故なら、この環境で乗るとは、馬をコントロールする必要が最小限ですむ。
 馬をコントロ−ルするする必要が少なければ、それだけ意識的に行動する必要が少なくて済み、反射神経など自律神経の機能を阻害する要因を最小限にとどめることができる。

 一般的に見られるのが部班運動だが、部班運動はライダーが馬をコントロールする必要性が少なくて済むという点では、丸馬場や調馬索運動と同じだが、馬にとって悪影響を及ぼしてしまうので、良い方法だとは思えない。

 部班運動をすると馬は、元々が群れをなす動物なのでグループを形成して、ライダーに対してという意識を低下させて、周りや先頭の馬へ意識を偏重させてしまうことになって、後々ライダーに対するコンセントレーションをトレーニングする妨げの要因を作ってしまう。

 乗馬クラブで起きる事故の最大の原因は、この部班運動によるものだ。このことは、ブリティッシュのクラブだけでなくウエスタンのクラブでも同様で、部班運動や外乗の時の隊列を組んでの運動によって、馬は前の馬に意識を傾けてライダーに対する集中度が低くなってしまい、周りの馬の動向に大きく影響を受けるようになってしまう。
従って、他の1頭が放馬してしまったり暴走してしまったりすると、その馬の影響をもろに受けて、近くにいる馬が一斉に暴れてしまって、事故を起こす。

 ライダーのバランスを養成するためには、馬をコントロールする度合いをなるべく少なくて済む環境を作って、リラックスして乗れるようにラウンドペンや調馬索が一番望ましいと思う。

 子供が大人比べて、早く上達してしまうのは、大脳皮質使わずにつまり意識して体をコントロールしようとせず、感じたまま体が動くに任せてやろうとし、反射神経が充分に機能して瞬く間に上達してしまうからだ。
子供は大人に比べて大脳皮質を使うのが上手ではない。従って、感じたままとか体が反応するままに任せてやるしかできないのだ。つまり馬鹿なのだ。

 だから大人も頭を使わないように、体が反応するままにやろうと努めれば、子供に負けたりはしないで上達できる。

 頭脳を使うべき時は、後々馬をコントロールしたり馬に学習させたりする場合において、とても必要とされるときが来る。

 乗馬でも他のスポーツでも、勉学でもフィジカル的運動であっても、とても大事なことは、自分が持つ感性だ。
感性を磨くには、先ずものごとから受ける感覚を心にはっきりと刻むことからはじめること何よりも大切で、考えてからものごとをはじめるという手順を絶対に止めなくてはならない。

 その出発がこのバランスの養成だ。
イメージを取り込むようにして、リラックスして馬に乗ることが何よりも速くバランス感覚を身につける方法といえる。

              


2010年4月28日

              
著者  土岐田 勘次郎



Page top / HOME

ホームへ戻るボタン

Eldorado Ranchへのメール reining@eldorado-ranch.com
TEL 043-445-1007  FAX 043-445-2115

(c)1999-2002. Eldorado Ranch. copyright all rights reserved.
このサイトの
記事、読み物、写真等の無断使用は禁止とさせていただきます。