先月、馬のコントロールのメカニズムについて解説をしたので、今月は、具体的な馬のガイド(誘導)について解説をすることにする。
ライダーが馬をガイドするためには、2つの要因を駆使する必要がある。その一つは馬をドライブすること、もう一つはそのドライブした推進力を抑制することで、そしてその何れかではなくて両方のコンビネーションによって、馬の進むべき方向(直進・曲折・反転・ストップ・バックアップ)やストライド(歩幅)やカデンス(歩調 リズム)やゲイツ(歩法 常歩・速歩・駈歩・襲歩)やスピードなどをコントロールすることができる。
私は馬のコントロールについて、2つに区分して考えることにしている。
それは、平面的コントロールと立体的コントロールとである。
平面的コントロールとは、馬をどこへ誘導するかであって直進・曲折・反転・ストップ・バックアップなどのことを指す。
立体的コントロールとは、ストライド・カデンス・ゲイツ・スピードなどのことを指す。
この平面的と立体的とのコントロールは表裏一体的なもので、どちらか一方をコントロールするということはあり得ない。従ってライダーは、必ず馬をコントロールするうえでは、平面的及び立体的コントロールの両方を意識下においてコントロールしなければならない。
例えば、レフトリードのロープ(駈歩)でレフトサークルを描くというように意識するということである。
それでは、具体的にライダーが馬のガイドを、どのようにして行うかについて解説していくことにする。
冒頭に記述したように、馬をガイドするために馬をドライブすることとそのドライブした推進力を抑制することとをコンビネーションして行う。
自動車でも自転車でもボートでも全く同様で、推進されたそのある方向性のエナジーに対して何らかの角度の抑制のエナジーを働かせて、進むべきスピードと方向性が決まる。
馬をドライブするためには、おおよそ脚やシートで行い、抑制するためには、やはりおおよそビット(ハミ)で行う。
ライダーは、推進だけでもだめだがビットを使うだけでも馬をガイドすることはできない。
先ずしなければならないことは、馬をドライブすること。そして馬の進む推進のベクトルに対して、ある角度の抑制力を影響させることによって、実際にガイドされるベクトルが決まる。
極論すると、進行方向つまり平面的コントロールは、推進のベクトルに抑制のベクトルが交差して作る角度と力量の差によって決定し、ゲイツ(歩法)やカデンス(歩調・リズム)やスピードつまり立体的コントロールは、推進と抑制との力量の差(加減)によって決定する。
ライダーは、馬に対して両脚を使ってドライブしたとき、どんなベクトルの運動が起きているかを知らなければならい。そしてそのベクトルに対して何らかの角度で交わる抑制力をビットによって作り、推進ベクトルと抑制ベクトルのエナジーの大きさの中間点が、進むべき方向である平面的ガイドとどんなスピードでといった立体的ガイドとなる。
このとき左右のレインを引いて作る抑制角度は、ビットのマウスピースの角度が抑制ベクトルと一致していることが望ましい。
良く見受けられるフィール(感覚)のないライダーがやることには、一生懸命レインを引っぱって馬をコントロールしようとしているが、ビットのマウスピースがどうなっているかお構いなしに右へと引っ張って、結果ビットは左に向いるから馬は外向き(左向き)になって引っぱられている現象がある。
先ず推進ベクトルがあって、そのベクトルに対してビットによってある角度の抑制力を発揮すると、その二つの力量と角度の中間点が、コントロールされた馬の推進方向とスピードが決定する。そして更に推進方向をより小さい回転半径のサークル運動へと移行するためには、より大きな角度の抑制力へと変化させることによってでき、より大きなサークルへと移行するには、抑制力の角度を小さくすれば、馬の運動はより直線的になるというメカニズムである。
馬をガイドする場合、飽くまでも馬の推進ベクトルと抑制力のベクトルとで作る角度とそのエナジーの大きさの差によって行い、馬の首を曲げることによって馬の運動方向が決まるわけではない。
初心者に見られるミスは、レインやビットで馬を動かそうとしてしまうことや、馬のネックを曲げることで馬をガイドしようとしてしまうことだ。
飽くまでも推進と抑制ベクトルとで作る角度によって、馬のガイドをしなければならないということを理解する必要がある。
さて、具体的に馬をガイドする場合に行う方法について解説すると、馬体が真っ直ぐである状態を前提として、先ず両手でレインを左右の均等の長さでもち、両脚で推進する。すると馬はそのまま直進する。
例えば、左サークル運動をする場合は、右外方レインを馬の外方ネックに沿って持ち、左レインは左内方を少し開いて持つ。このことによって馬の口を頂点とする左内方に開いた三角形を作ることができる。
そして馬を推進して直進させ、その推進ベクトルに対して、左右のレインハンドはそれぞれにレインが作るラインをそのまま引く。つまり作った三角形を維持したまま、右レインは馬の外方のネックに沿って引き、左内方はその開いたままの角度を維持してレインを引くということだ。
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このとき、左右のレインを引くプレッシャーは、同じ強さでなくてはならない。
サークルの回転半径の大きさは、内方レイン開きの大きさで決まる。より大きければ三角形の頂点の角度は大きくなって、推進と抑制のベクトルで作る角度は大きくなって、サークルの回転半径はより小さくなり、内方レインの開きを小さくすればその逆となって三角形の頂点の角度は小さくなって、より大きな回転半径のサークルとなる。
左右の手のプレッシャーは、原則的に同じ大きさとし、内方の手の開きの大きさでビットを頂点とする角度を増減させて、推進と抑制のベクトルで作る角度を調節して、馬の進行方向を決定する。
馬体や馬の首を曲げることで、その曲げた方向へ馬を運動させようとすることは、大きな間違いだ。
飽くまでも推進と抑制のベクトルが交わる角度の大きさで、馬の運動方向を決めると考えなくてはならない。極端なことをいえば、馬体を真っ直ぐなまま小さく曲がることもできれば、曲げたまま直進することもできる。つまり馬の進行方向は、推進と抑制のベクトルが交わる角度によって決まるということなのである。
勿論、推進と抑制の運動エナジー(力量)の差によっても、運動方向は大きな影響を受ける。
三角形の角度を大きくしても推進エナジーの方が抑制エナジーより圧倒的に大きければ、馬の進行方向は推進のベクトルに沿った方向となり、その逆に抑制のエナジーの方が圧倒的大きければ、抑制のベクトルに沿った進行方向となる。
ワンハンドによるガイドも、両手の場合とそのメカニズムは全く変わらない。
推進のベクトルと、ピックアップするビットに掛ける抑制のプレッシャーのベクトルとが交わる角度によって、馬の運動方向が決まる。
馬をガイドする場合に、両手であってもワンハンドであっても左右横に振ることによって運動方向をコントロールしようとするライダーがいるが、これは間違いで、飽くまでもライダーは馬をガイドしようとするときに、推進ベクトルと抑制ベクトルとが交わる角度によって、馬の運動方向が決まると考えなくてはならない。
初心者に良く見られる間違いは、推進ベクトルを意識することができないために、只自分が行きたい方向へとレインを引っ張って馬を曲げようとすることで、実際にはコントロールができない。
ネックレインという言葉がウエスタンライディングの世界にある。それは外方レインを馬の外方ネックへタッチして、内方へとガイドすることで、外方レインのタッチで内方へ移動することをトレーニングした結果できるガイドの方法だ。
この方法は、馬の学習能力を活用したガイドの方法で、ここで説明しているガイドのメカニズムと論点が違う。ガイドのメカニズムとは、ムーブメントのことで、重心移動をコントロールするために必要な論理なのである。この論理のうえに馬の学習能力を活用して、馬をコントロールする必要がある。何故なら、馬の運動は、馬自身でコントロールしている運動と馬自身の意思でコントロールし難い運動があるからで、運動の全体をコントロールしようとするなら、運動そのもののメカニズムを理解したうえで、そのコントロールの方法を企てる必要があるからなのである。
「馬をコントロールするとは、馬のステップをコントロールすること。」ということもでき、ステップと進行方向との相関関係は、前肢と後肢のステップ角との相関関係で成り立つ。
(注:ステップ角とは、馬体のヘッドからヒップまでの縦の中心線に対するステップの角度のこと。)
前肢のステップの角度が一定であるという前提において、後肢のステップ角が前肢よりも大きな角度のステップをすれば、進行方向はステップの方向と逆になり、後肢のステップ角が前肢より小さければステップ方向と進行方向は一致し、その差が大きい程回転半径小さい円運動となる。
また、後肢のステップ角度が一定である前提において、前肢のステップ角が後肢のよりも小さければ、進行方向はステップ方向とは逆になり、大きければ進行方向はステップ方向と一致し、ステップ角の差が大きくなればなるほど回転半径の小さな円運動となる。
後肢のステップ角を左右の前肢の間に向かうようにして、大凡これを絶えず一定に保つように推進し、その推進のベクトルに対してビットによる抑制のベクトルで交わる角度を作ることによって、前肢のステップ角を作って馬の進行方向をコントロールする。
馬のガイドは、とても複雑なメカニズムを持っており論理的解説は、複雑多岐にわたる。
しかし実際にライダーは、感覚的にこれを行う必要があって、重要なことは推進のベクトルを絶えず体感していることで、推進のベクトルが体感できていれば自ずと馬をガイドするために行う抑制のベクトルをどのようにすれば適切なのかを的確に掴むことができ、結果的に馬をコントロールすることができる。
そして更に重要なことは、この動作の中で馬の学習のメカニズムを意識してプレッシャーアンドリリースを組み込んで、より小さなキューイングによって馬のガイドを実現するようにという意識的ベクトルを持たなければならないということだ。
2010年8月26日
著者 土岐田 勘次郎
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