第二部
VOL.11 (No.4)
RODEO
何度目かに北海道に足を運んだある日、ライジングスターが、
「ロディ、明日札幌でRodeoを開催するのだが、一緒に行こう」
「Rodeoって、あのRodeo? 誰がやるの? 馬は? 牛は? どうやって暴れさせるの? 誰が乗るの?」
と質問攻め。
「農産物の組合の主催でブリティッシュの人達が、イベントとしてやるんだが、牛はいないが、馬は集めたらしい、全部軽種だそうだ。これ一応作ってみ たけれど、この帯を馬の下腹部に縛る。垂れ下がった紐を引くとワンタッチで外れるようになっている。乗るのは勿論、俺達もやる」
なんで、こんな話になったのかというと、ブリティッシュの人達がイベントとしてRodeoをやりたいが、わからないので指導してほしいと要請があったのだ。こちらから行くのはライジングスターとJ・Bと名乗る男に俺。ホーストレーラーは牽引してなくとも、気分はすっかりRodeo Manだ。
現地に到着、即席のロデオアリーナは出来ていたが、全部やり直し。馬を納める囲いの板が外側から打ちつけてあるのを内側からに・・・、囲いが広いので、馬が中で方向転換出来ない様に狭く作り直す、で、時間が過ぎてしまったのだ。
ブリティッシュの人達は、初めてなので(私だって初めてよ)見本をやってほしいとの事で、仕方なく3人で打ち合わせ、ここはウエスタン野郎の見せ所、馬場柵には関係者はじめギャラリーが群がる。
最初はライジングスターが乗り、ピックアップマン(馬の下腹部を縛った紐を外したり、ライダーを助けたりするカウボーイの事)を、J・Bが努め、俺はゲートの開閉。
種目はベアバック(裸馬)、馬の背に、サドル代わりのパットに取っ手がある、鐙はない。いよいよ挑戦だ。囲いの中で馬の下腹部をギュッと締め上げる。馬は暴れる。ライダーのGOサインが・・・ゲートが開かれる。
馬は狂ったかの様に全速力で走り出す、バッキング(背を丸めてはねる)は、しなかったものの、その動きは凄まじい。当たりを見回したら、馬場柵には誰(主催者の人たち)もいなかった。
ライジングスターを見上げたのは、馬の下腹部を縛って暴れさせる紐を、ワンタッチで外せるように工夫して作った事、やはり知ってる奴しか考えられないと思った。都会のカウボーイとの差を見せつけられたね。
つぎはJ・Bだ。小生はビビリはじめている、なるべくなら乗りたくない、彼らとは目を合わせたくないのが心情だが、こんな時こそ目が合ってしまう。
「次は、ロディだね」
と、目で合図を送って、ゲートを飛び出して行った。彼の馬もバッキングはしなかった。8秒をクリア、駆け寄ったピックアップマンの馬に乗り移って、どうだと胸張った。この二人のカウボーイ魂!(注:8秒=ロデオのルール。8秒落ちずに乗っていればクリア。)
ここまで見せつけられちゃ、後へは引けぬ、背中を見せたら汚名はついて回る、死にはせぬだろうと自分に言い聞かせたが、冷静さは失われていたのでした。
パットの取っ手を左手でしっかり握り、利き腕の右手でバランスを取るのが本当のところ、それを、落ちまいと思う心が優先し、逆に持ってバランスを取ることを忘れていた。
ゲートが開かれ、飛び出したが、一瞬のうちに地面の砂を食べていた。
「なんで俺の時だけ跳ねるのよ」
2、3回跳ねられた記憶はあるが、後は覚えていない、落ちる時に、馬の後ろ足が私の大腿部に触れ、蹴られた状態でしばらく立つことが出来なかった。落ち方によっては、良くて重傷、最悪なら死亡となる。無謀もいいとこ、素人がやるものではない。
別な話だが、こちらは本物、といってもプロではないが。
ネブラスカ・カレッジの学生がアルバイトで雇われていたあるロデオのチームが、静岡物産展にやって来ていた。この中には、本物のカウボーイもいた。
このアトラクションにトリック・ロープをやってくれと依頼されたのだ。日本人が、本場のアメリカ人の前で演技するなんて、考えてもみなかったことだが、一目ロデオが見たくて、それも無料で入れるというのでOKした訳。これが結構受けて、逆にカウボーイ達に教えてやった。(注:トリック・ロープ=ロープを自在に操って、大きい輪にしたり(ボディループ)、8の字を描いたり(バタフライ)、縄跳びのように飛んだりする技。)
8日間中、半分位通ったかな、第1日目に一人のカウボーイを紹介された。長身の好青年、これがまた格好がいい男、大牧場の御曹司とか・・・。
通訳が、
「日本でRopingを目指している男、是非教えてやって欲しい」
と、紹介が終わらないうちに、彼はDummyをセットしてくれている。(注:ダミー=ローピングを練習するために牛の頭をつけたもの。ドラム缶や干し草の固まりで作る)
「投げてみなさい」
俺は、ここでいい印象を与えておかなければ、後に繋がらないと思った。2、3回投げてビシッと決めたね、彼が肘で俺の体をつっついて、
「おい、俺に教えろよ」
だって。これが後に繋がったね、最後の日に競技に出してくれたのだ。
最終日の前夜、主催者がパーティーを開催したその席上、俺は通訳(女性)にお願いして、
「彼が来たら絶対に俺の傍に座ってもらい、厚かましいですが貴女もいてください」
一同がやって来ました。彼女は、手招きして呼んでくれました。
「私は西部劇が好きで、カウボーイが好きでこの道に入って、今はRopingに対して情熱をいだき、手探りながらも練習は欠かさない。少しでもいいから教わりたい」
「わかった。明日の朝8時に来い。一緒に仕事をやろう。そんなに好きならば僕の牧場に来るといい、毎年5月頃ラウンドアップがある。カウボーイの仕事だ。いい勉強になるから来いよ」(注:ラウンドアップ=放牧されている牛や馬を集めること)
次の朝、約束の時間より早めに会場に着いたら、もう彼は準備して待っていた。遅くならなくて良かった。
彼との投げ合いが終わり、仔牛を使い、足を縛ることを教えてもらっていたら、カウボーイ達が集まって来て手伝ってくれるではないか、
「俺、こんなにしてもらっていいのかなァ」
こうなると欲が出てくる。前もって主催者の担当に
「最終日でいいから、ぜひ出場させて欲しい」と、申し出ていたものの内心は迷っていたが、だんだんと自身が沸いてきた。勿論Ropingだ。しかし、いっこうに返事は来ない。半ば諦めていたが、突然アナウンスが流れる。
「ロディ長谷川」
出場の許可を得たのだ。但し、カウガール組。この時の種目は、Calf RopingとTeam Ropingの2種目。カウボーイは両方、カウガールはCalfのみ。カウガールはルールが異なり、仔牛に掛けたら、サドルホーンにダリー(巻き付けること)しないで、ロープを放す。(指が挟まって危険なことがあるため)(注:Calf
Roping=走る仔牛にロープをかけ馬から飛び降り、肢を縛りあげるタイムを競う。Team Roping=2人1組で牛を捕まえるタイムを競う。角にかける係りをヘッダー、後ろ肢にかける係りをヒーラーという。)
Roping Horseは初めてだが、とにかく日頃の練習を試してみたかったのである。準備OK、シューターマン(ゲートの開閉係り)に合図を送る。
「ガシャーン」扉が開く、仔牛がダッシュ、
「それッ」とばかりに拍車が入る。
やや、牛より左寄りに馬をコントロールして、牛と馬の間隔は間隔は空けない。あれは俺がコントロールしたのか、馬がコントロールしたのか、定かでない、時間にして1分かかっていないのでは? うまく掛かった。
馬が止まった瞬間、股間に激痛が走った。顔が歪む、女性にはわからない痛さ、サドルに思いっきりぶつけたのだ。
「只今のタイムは、○○秒」
此処は笑顔を見せなくてはいけない。会場の皆さんに手を振って応えてから、何気なく馬から下りて、物陰に引っ込んだとたん、飛んだり跳ねたり大変だった、あまりの痛さに・・・。痛みも治まった頃、結果発表。
「本日のナンバーワンは、ロディ長谷川 !!」
|