
'99,8,29 16th Congress judgeのDr.Jim
Morganと日本酒で乾杯

第二部 VOL.9(No.2) 嘘八百
馬(一頭)が夜中の散歩に出掛けてしまった。すぐさま焚き火のところに駆け戻り、大声を出して
「皆起きてくれ、馬が逃げた」
一斉に飛び起き、ホルター片手に四方八方へと飛び散った。(四人だから八方は要らないか、ちょっと大袈裟でしたね)
「お〜い居たか〜」
「こっちは来ていないなァ。足跡がないよ」
「お〜い、こっちだ。足跡見つけたぞ〜」枯れ葉の上に露が下りていたから、月の光でも足跡はハッキリわかる。つけて行くと、キャンプから程遠くない所にのんびりと拾い食いをしているではないか。コラールに戻してロープを張り直す。もうひと寝入りするかと思ったが、結局夜の明けるのを待つ事にした。空が明るくなるにつれて辺りを見回すと水溜りには氷が張っていた、どうりで寒い訳だ。
焚き木が少なくなってきたので、もう少し集めようと、俺と赤シャツで、向こう岸にある枯れ木拾いに行った。
木を抱えながら岩を飛び越えた時、赤シャツは、足元が見えなかったのか岩の上が凍っていたので、ツルリと滑って、沢の中に片足がザブン・・・・。
今度は濡れたブーツを乾かそうと、焚き火の傍で干していたら、乾かし過ぎて、縮んでしまって履こうとしたが足が入らない。仕方ないからナイフで切り裂き、やっとの思いで履くことが出来た。本人にしてみたら最悪だったろう。馬に餌を与え、我々も朝食を済ませ、一服してから馬装の準備。キャンプ地の後始末、最後に焚き火に水をかけて出発。二日間の旅ではあったが、尻が痛くてカウボーイの仕事は大変だったんだなァと思った。
少し「赤シャツ」の事について話をしてみよう。「赤シャツ」がホラ吹きに思えた事が三つある。
彼が、C&W(カントリー&ウエスタン)界では顔だ、という事は彼の仲間の人達から聞いていたが、C&W界の大御所と知り合いだと本人は言う。俺は信用しなかったのである。
その大御所のことは、十代の頃からラジオやテレビで聞いたり見たりしていた。アメリカ独立200年際には、今は無くなってしまったが、日本劇場(日劇)まで行って生で見た。スターというのは遠い存在なのに、俺と赤シャツは友達で、その友達が、スターと知り合いとは信じ難い。ある夜の事である。彼の店に行き、もう帰ろうかなと腰をあげたら、
「ロディ、大御所が来るから待っていたら」
「電車に乗り遅れると帰れないので」
と、気にも留めずに店を出たが、結局終電車に乗り遅れてしまった。都会の真夜中に一人ブラブラしている訳にもいかず、店に連絡してから戻って行ったのでした。ドアを開けて一歩踏み入れる。
カウンターの奥にでも眠っていたのだろうか、私が入って来たのに気がついたのか、男が顔を上げてこちらをジーっと見ている。な、なんと....、私は自分の目を疑った。
赤シャツが
「大御所だよ、大御所を紹介するよ。ロディって言うんだ、いっしょに馬に乗っている」
大御所は虚ろな目で
「よッ」
と言って手を差し出してくれたのだ。日本カントリー界の大御所と、今、握手をしている。“感激!” 「赤シャツよ、あんたは嘘つきではない」二つ目、
「俺の叔父が北海道で牧場を経営している。尾根を三つ位越えないと他人の 土地に入れない位広い。最盛期のときはカウボーイが30名程いた。」ま、北海道ならそれぐらいの土地を持っている人もいるだろう。話半分にしても信じられる範囲だ、が、
「冬でも牛を放牧してあるので、熊から牛を守る為にライフル銃を持ち、山の中腹にマイクロバスの廃車を置いて、雪の中を一週間交代で、寝泊りするんだよ」
「おいおい、此処は日本だよ、コヨーテ、牛や馬泥棒が出没するわけではないのに」
冬眠してないのかなァ、少し話が大き過ぎるのではないか、西部劇ではあるまいし。そんなホラ話を聞いたある年の秋に、何人かで北海道の牧場を訪ねる機会があった。勿論赤シャツも一緒、早速、外乗へ。平坦地でも普通の乗馬クラブの十倍はある。そこを通り抜け、段々昇って行くと一番近い放牧場に出る。鉄条網が張り巡らされていて、ゲートには鍵がかかり、開閉してから次の放牧場へと進んでいく。
大分登ってきたのだろう、辺りを見回しながらなんとなく下を見下ろしたら、牛の群れがのんびりと草を食べている。
「随分上の方まで移動しているなァ」
話のとおりにマイクロバスの廃車が置いてある。あまり広すぎて到底回りきれないから引き返す事にして、帰り道マイクロバスの所に寄った。
見たら、鋭い爪で引っ掻いた跡があるではないか。一瞬恐怖感に襲われた
「これはヤバイ、みんな早く帰ろうよ」
「赤シャツよ、あんたは嘘つきではない」三つ目。三つ目になると私も信じる気になって来た。二つとも事実であった。
赤シャツは親戚でもあるので、この牧場を手伝ったことがあるらしい。初めはカウボーイ達から白い目で見られ、意地悪された時もあったという。それは何故か、経営者の身内だからだそうだ。
こんなことを聞いた。上の放牧場から下の放牧場へ、何十頭からの馬の群れを追い込む時の事、L字型の道、直進すれば小川がある。その角に立たされて追われて来る馬の方向を変える役目、いわゆる度胸試しである。彼は、馬に対して大きく見せるため、両手に竹ぼうきを水平に持ったそうです。土煙を上げ、地響きを鳴らしながら突進してくる馬を、途中まで見つめていたが、目前に迫って来た時には恐怖心で目をつぶってしまった。
「うあ〜」
という叫び声と共に、両手を上下に揺さぶった。馬は、放牧場へとなだれ込んでいったが、気がついた時は呆然としていたらしい。だが、その時からカウボーイ達に変化が起きた。
彼の存在が認められたのだ。酒を飲み交わすまでになって、今度は仲良くなり過ぎ、雪の吹き溜まりに酒瓶を埋め隠していたが、春先に雪が溶けてきて、酒瓶が山に積まれていたのが、牧場主に見つかり叱られたとか。(場内は禁酒だった)
飲んべェの赤シャツなら信じられるが、またまた信じがたい話が出てきたのだ。あるカウボーイが馬に蹴られて、額の所に蹄鉄の跡が残っているのだそうだ。
「馬に蹴られたって、しかも頭をだよ、死んでしまうよ」
丁度、大御所のウエスタンショーが函館で行われた時に、赤シャツと俺、他に数人で同行した。ショーを観てから一行は大沼までタクシーを飛ばして、その夜はコテイジに泊まり、翌日牧場に出向いたのである。大御所が来るというので、数十人が集まっていた。その中に、蹄鉄の男もいたのである。赤シャツが俺を彼の所に連れて行き、
「頭を見せてやってくれ」
本当に額の上に蹄鉄の跡がくっきりと残っていて、其処の所だけ髪の毛が抜けている。
「赤シャツよ、あたしゃ、あんたに負けました」
第二部 VOL.10(No.3)へつづく